奮励努力を重ねても「ノーベル賞」と縁遠い「中国」「韓国」にはワケがある!

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これまでノーベル賞を受賞した日本人は24名。このうち物理学賞、化学賞、医学・生理学賞の自然科学分野での受賞は21名である。それに比べ、お隣韓国、中国の受賞者の少ないこと。そこには、当然理由があった。

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韓国人でノーベル賞を貰ったのは、自然科学分野でゼロ。平和賞の金大中元大統領が唯一の受賞者である。そのため日本人が受賞する度に、韓国国民は溜息を吐(つ)いているという。もっとも、今年は、中国人として初めて屠(と)ゆうゆう氏が医学・生理学賞を受賞したこともショックらしい。例えば、「韓国経済新聞」は社説(10月7日付)で、こう書いている。

〈中国はお祭りのような雰囲気だ。(中略)毎年ノーベル賞が発表されるこの時期になると韓国の私たちは、競争国である日本と受賞実績を比べながら神経を尖らせた。(中略)ところが今回は中国までも登場した。それでも産業化ではまだ韓国に遅れているとみていた中国が科学分野のノーベル賞を貰い始める現実を目の前で見ることになったのだ〉

さらに社説は、韓国は社会的騒乱の中で産業が崩れ、技術も後退、黙々と一つの分野を研究する学者は評価されにくい、と指摘する。

韓国出身で拓殖大学教授の呉善花氏が言う。

「韓国は600年間、儒教の影響で社会が士農工商にはっきり分かれていて、自然科学や技術者、モノ作りへの蔑視が根付いていた。その価値観は、今も根強く残っています。国としては『モノ作りや基礎研究に力を入れたい』というものの、文化的背景からそういった仕事には誇りを持てない傾向があるのです」

かの国は受験戦争が激しいことで知られるが、

「それは将来、官僚や社長など人々を支配する側になりたいがためであって、研究者を目指す人は少ない。経営者として成功したい人が多いので、大学の学部では経営学が非常に人気です」

理系学部では理工系は敬遠され、医学部が人気が高い。ただし、評論家の室谷克実氏(元時事通信ソウル特派員)によれば、

「国内にある41の医学部に入学し医師免許を取る学生のうち、99%は患者を診察する臨床医学の分野に進みます。卒業後、基礎医学の研究室に残る人は“天然記念物”と呼ばれるほど少ない。3000人のうち20人程度と言われています。理由は、ノーベル賞が贈られる基礎医学はカネにならないから。逆に、韓国では美容整形をする人が多いので、最近は美容整形外科医になる人が特に多い」

これまでも「どうしたらノーベル賞が獲れるか」といった議論はあった。その結果、基礎科学研究院を設立。韓国のGDPに占める研究開発への投資比率は今や世界1位である。だが、現状では結果は出ていない。産経新聞ソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏は、

「国や企業が設立した色々な研究所があります。ですが、早く成果を上げないといけないという韓国人特有の性格も関係しているのか、施設では3年とか短期間で結果が出る実験を中心にやらねばならない。長期間にわたり、日の目を見ないかもしれない研究をやる余裕がないのです」

この点を正さなくてはならない、と自己批判する声も出ているという。

「韓国人はよく『自分たちには職人気質は合わない』と言います。確かに、この国では“この道一筋”で、一つのことをコツコツやるオタクよりも、広く浅く何でも知っているジェネラリストの方が社会的評価が高いですからね」(同)

■3回落選

他方、中国の場合はどうか。これまで中国籍を持つノーベル賞受賞者は、平和賞の劉暁波(りゅうぎょうは)氏と文学賞の莫言(ばくげん)氏の2人であった。

そこに、生物薬学の専門家で漢方を研究、マラリアに効果がある調合法を発見した屠氏が加わったのだ。

ちなみに、人権活動家の劉氏は、中国政府から犯罪者扱い。現在も刑務所に収監中で、

「劉さんが平和賞を受賞したことは、中国では完全に無かったことになっています。ですから、今回、屠さんが『3人目のノーベル賞受賞者』のような報じ方をされることはありません」(中国評論家の石平氏)

彼女は、博士号や海外留学経験を持たず、院士でもない。「三無教授」と報じられている。

「自然科学で受賞したのは、中国籍の人では初めて。メディアはナショナリズムを鼓舞する報道を連日続けており、お祝いムードは相当なものです。その一方で『中国科学院は何をやっていたんだ』という批判の声も少なくありません」(同)

「中国科学院」とは、1949年11月に設立された中国の自然科学の最高研究機関である。94年、技術分野が分かれて出来た「中国工程院」と合わせ「両院」と呼ばれる。どちらも中国の国家戦略に関わる中枢機関だ。ここで主導的な立場にある研究者を院士という。

「院士には、社会的地位と経済面での手厚い援助が約束されます。院士になるには推薦をもらって、選挙で当選する必要がある。屠さんは、政治的な気配りや根回しが下手で、選挙で3回も落選しているのです」(北京特派員)

政府に気に入られなければ、院士にはなれないのだ。

「彼女は、それでもコツコツと研究を続けてきた。そんな人が、社会的な地位や権威はあるが、大した学問的成果を挙げていない院士の連中に一泡吹かせてやったという構図で語られています」(石氏)

つまり、彼女は国内で無名に近い科学者。今回は運が良かっただけで、今の中国にはノーベル賞を獲るような研究者が育つ土壌はないという。

「中国では、大学も研究者も金儲けを第一に考えています。地道に基礎研究をする人はほとんどいません」

と、石氏が続ける。

「今、中国の研究者の間では貧富の差が拡大しています。企業に入り製品開発をしたり、名義貸しビジネスをしている人は『金持ち学者』。真面目に基礎研究をしている人は食い扶持に困り、副業で塾講師などをしています。彼らは『貧乏学者』と呼ばれていますよ」

拝金主義が罷り通り、基礎研究にも目が向かない。韓国や中国政府がいくら奮励努力を重ねても、ノーベル賞をいくつも獲れるのは、まだまだ先の話なのだ。

「特集 『ノーベル賞』受賞の光と影と舞台裏」より

週刊新潮 2015年10月22日号掲載

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