シングルマザーが悲嘆し娘を殺す悲劇 生活保護申請を拒む「水際作戦」とは

社会新潮45 2015年10月号掲載

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 2014年9月24日、今から約1年前、千葉県銚子市の県営住宅でシングルマザーの母親が中学生の娘を手に掛けた。その日は母子2人で暮らした県営住宅を家賃滞納で強制退去させられる日だった。2人の全財産は数千円にまで落ち込み、1万2800円の家賃を2年4カ月にわたり滞納していた。なぜ2人はそこまで追い詰められたのか? なぜこのような悲劇が起きたのか? 毎日新聞記者川名壮志氏がその謎に迫ったレポートが「新潮45 10月号」に掲載されている。

収入はゼロ。闇金の督促は昼夜問わず

 川名氏は裁判で明らかになった事実に加え、千葉県や銚子市を取材。事件の現場も訪ね歩いた。記事では母親の松谷美花被告(44)がシングルマザーとなった経緯から経済的苦境に陥ってゆく様子が明らかにされている。母親は当時学校給食センターのパート職で、時給850円。月8万円程度の収入しかなかった。さらに事件を起こす前の月は学校の長期休暇である夏休みで収入はゼロだったという。

 さらに記事では美花被告が闇金からも借金をしていた事が明かされる。いわゆるトイチの利率を少ない収入の中から支払えるはずもなく、闇金業者から朝晩となく督促の電話が鳴り響く状態だったという。こうした状況を打開する方法はなかったのだろうか。裁判の中で2人は生活保護を受給できる水準を満たしていたことが明らかになった。しかし結果的に生活保護は支給されていなかった。

生活保護申請を拒む「水際作戦」とは

 川名氏は日本の生活保護受給の現実をレポートし、支払う側の行政による「水際作戦」によって美花被告が「相談」の段階で生活保護申請を諦めてしまったのではないかと疑問を呈している。銚子市役所には美花被告が面談におとずれた記録が残っているが、申請には至らず「相談のみ」で終わっているという。行政の「水際作戦」とは生活困窮者の申請を窓口で拒否し、支給を抑制し社会保障費を抑える作戦だと川名氏は解説している。

 さらに美花被告が収入に応じた家賃の減免制度を利用していなかったことや、県営住宅明け渡しの督促に対応しなかったことなどをあげ、経済的な困窮だけではなく、社会的な孤立や情報過疎に陥っていたのではないかと分析する。ただし川名氏は行政の非情が事件を引き起こした、もしくは本人の怠慢やあさはかさが引き起こした自己責任だ、などとどちらか一方に責任があったと簡単に結論づけられるものではないと述べている。

《都合よくどちらか一方に比重をかけてしまえば、かえって本質を見誤る気がする。一刀両断に切り分けられない難しさが、世の中にはある。現実は想像以上に雑然としている。》

 川名氏は母娘の結びつきをあらわすエピソードや裁判で明らかになった事実を多数挙げ、全く責任のない13歳の少女が殺された理由をみつけだそうとする。6月12日、美花被告は求刑14年のところ懲役7年の判決を言い渡された。検察は控訴を断念したものの、美花被告は控訴したという。その理由は「新潮45」本誌で確かめて頂きたい。

デイリー新潮編集部

川名荘志(かわな・そうじ)
1975年長野県生まれ。2001年、早稲田大学卒業後、毎日新聞社入社。初任地の長崎県佐世保支局で「佐世保小6同級生殺害事件」に遭遇した。著書に『謝るなら、いつでもおいで』がある。