日本人というだけでカリブのオタクに尊敬されて――風樹茂

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■地球の裏側のルフィ

 販売ブースを出ると、次に待っているのは、コンピュータの格闘ゲーム、そしてカードの対戦ゲームのコーナーだ。そこもたくさんのオタクで賑わっている。格闘ゲームに集まる連中は、弱々しいオタクと違い、男っぽさを漂わせている。

 その隣の広間で、大きな歓声がずっと響いていた。コスプレコンクールの会場だ。200人前後の男女が椅子に座り、立ち見がたくさん出るほどの盛況。コンクール参加者は50名。ナルト、ポケモン、初音ミク、ワンピース、マリオなどが人気だという。舞台の上だけではなく、観客席もレイヤーやカメコ(カメラ小僧)で一杯だ。聖闘士星矢のアテナ、何の漫画かわからないサムライ、ゲームのアサシンクリードやLeague of Legendsの登場人物、変わったところではスペインから来た、女神と悪魔に扮しているオカマペア。

 ちょうど舞台への階段を、麦わら帽子、赤シャツ姿の10歳前後の少年が、2人の大人の介添えで、足を引きずるようにして、登ろうとしているところだった。彼は椅子に座り大歓声に包まれる。白い顔が紅潮している。私も一瞬涙が出そうなほど感動した――彼は楽天的で、勇気りんりんで困難に負けず、友情を重んじる『ワンピース』の主人公ルフィに憧れ、自身と重ね合わせている。

 日本文化など根付いていない地球の裏側の国で、日本のアニメが彼に居場所と生きる勇気を与えていた。でも、私が一層心を動かされたのは、足が不自由だからという理由だけではない。

 ワンピースはテレビで放映されていない。漫画もまだ売られていない。インターネットでスペイン語版を見るしかない。しかも、ベネズエラのネット事情は悪く、ぶつぶつ切れたり、1日中通じないことも日常茶飯事で、万事困難を乗り越えて、映像に辿りつかねばならない。快適で効率的な日本社会と正反対なのだ。

 さらに少年の姿は、忘れていた遠い過去(後述)をふっと私に思い出させてくれた。実は、私はベネズエラのオタク集団の中で、少し居心地が悪かった。私はオタクとは遠い存在だと思っていた。けれども、考えてみれば、私だってオタクの端くれ、いやオタクの源流ではないか。

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