夏休みは空き巣の一番の稼ぎ時! 伝説の「泥棒刑事」が警告する「あなたの自宅は隙だらけ」――小川泰平(元神奈川県警刑事・犯罪ジャーナリスト)

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■被害の大半は“無施錠”

 話を戻すと、マンションでは「まさか、うちに泥棒は入らないだろう」と考えている最上階の住人が狙われます。造りのしっかりとした分譲マンションは、ベランダのフェンスがコンクリート壁になっていますから、屋上から飛び移る時の足場に最適です。

 マンションの屋上は一般的に立ち入り禁止ですが、現実には住人が自由に出入りして洗濯物を干したり、プランターで野菜を育てていることも多い。また、屋上の設備を点検する業者のために、作業用ハシゴが設置されている場合もあるので、空き巣は屋上まで難なく侵入してしまう。

 ロッククライミングのように壁や雨どいを伝って、屋上から最上階の部屋のベランダに飛び移るくらいの芸当は朝飯前。ロープを使うのはむしろ少数派ですね。郊外の高級マンションに目立つルーフバルコニーも、屋上から飛び移るのを容易にします。

 私が現役の頃、高層マンションばかりを狙う、“高所侵入”専門の空き巣と留置場で話したことがあります。

「お前、バク転できるのか?」と尋ねると、「そんなの簡単ですよ」と言って披露して見せた。それに調子づいたのか、「こんなこともできます」と言うや、今度は僅かな助走で壁を駆け上がり、留置場の天井に蹴りを入れて見事に着地した。こんな“忍者”のような泥棒が実在するのです。

 他方、賃貸アパートのベランダによくあるアルミ製の格子は、足場としては強度が劣りますし、何より、空き巣に入る様子が外から丸見え。その点、高級マンションはコンクリート壁が目隠しとなって、窓ガラスを“破る”姿が周囲の目につく心配もありません。こうした条件が備わっているため、空き巣は分譲マンションの最上階を好みます。

 同じ理由で、大人の背丈を超えるような高いブロック塀がある一軒家も注意が必要です。そういうお宅は庭で番犬を飼っていることも多いのですが、プロの泥棒の前では役に立ちません。というのも、猫にマタタビのように、どんな犬もイチコロの“万能エサ”があるんですね。空き巣は、このドロドロとしたゲル状のエサを使って、たちどころに番犬を黙らせます。もちろん、室内犬などは論外。少々可哀想ですが、ある常習犯は、「チワワやミニチュアダックスフントなんて、一発蹴り上げたら部屋の隅っこに隠れて鳴き声も上げませんよ」と話していました。

 さて、空き巣がマンションのベランダに忍び込むと、あとは室内に侵入するだけです。外国人窃盗団はハンマーで窓ガラスを叩き割る荒っぽいやり方を好みますが、激しい音が響くのでマンションや住宅街には不向きと言えます。

 一方、プロの泥棒が用いるのは主に“二点三角破り”という手口。クレセント錠付近のガラスとゴムパッキンの間に、マイナスドライバーを差し込んで捻るとヒビが入ります。同様に、もう1本ヒビを走らせれば、クレセント錠の周りを三角形に割ることができる。そこからドライバーの先端を挿し入れて開錠するのです。常習犯になると、ほとんど音もなく一瞬で窓を破ってしまいます。

 その反面、かつて主流だった、玄関のドアを破って侵入する犯行は激減しています。工具を鍵穴に入れて開錠するピッキングの件数は10年前の1%以下、サムターン回しも7%以下に落ち込みました。

 これは人々の防犯意識、そして、マンションや住宅の防犯性能が高まったからに他なりません。ただ、それでも空き巣被害がなくならないのには、大きな理由があります。

 実は、泥棒の多くは“無締(むじま)り”、つまり、鍵が開いたままのドアや窓から侵入しているのです。平成25年に侵入盗の被害に遭った住宅の“無施錠率”は、実に45・1%に達します。

 無締りは真夏に顕著な問題です。クーラーが嫌いな高齢者は窓を開け放っていることも多く、エアコンを使うご家庭でも換気のために窓ガラスをズラしておくことは珍しくない。住人がそのまま買い物にでも出掛ければ、その家は泥棒にとって鍵の開いた金庫も同然。住人の心の隙間が、泥棒に付け込まれるわけです。

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