「悩み」は「おもしろい」/『日本人の人生相談』

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 新聞であれ雑誌であれ、人生相談の欄は不思議と読んでしまう。人はいかに瑣末な問題に悩み、解けそうにもない深遠な疑問の前で立ち止まる存在なのか。また疑問に答える人々が、いかに多様な人生観を抱いているのか。人生相談にはその両者を同時に味わえるという醍醐味がある。本書は、大量の「悩み」の中から、人生、人間関係、仕事、恋愛、夫婦などに関する定番の35種類を取り上げ、それぞれに対する複数(3~4人)の回答の要点を抜粋し、著者の視点を加えるという構成をとっている。村上春樹、橋本治、田村隆一、赤塚不二夫、弘兼憲史、石原裕次郎、泉谷しげる……。回答者として、作家、詩人、漫画家、タレントなどの有名人から匿名のホームレスまで「74人の賢者」たちが選ばれている。例えば、仕事にやりがいを感じられないという24歳の女性編集者に、深沢七郎は「なんにも考えないで、なんにもしないでいることこそ人間の生き方だと私は思います。ただ、生きていくには食べなければならないのです」と答える。若ハゲに悩む21歳の青年に、赤塚不二夫は「まず、毛を一本だけ残してスキンヘッドにしろ。次に、右手に“おでん”を持て。そして鏡を見ろ」と叱咤する。著者が書いているように、複数の回答からは共通する要素が浮かび上がり、「悩みの正体」が姿を現す。と同時に、時代と価値観の変遷を感じ取ることも出来る。付録のコラムも興味深い。それによると「人生相談」「身の上相談」という形式が最初に登場したのは明治30年代の婦人雑誌。第二次大戦中はこれらのコーナーは姿を消したという。人生相談は、平和な日常生活を前提としてはじめて成り立つ場のようである。悩みをどう楽しみ、どう人生に生かせるかを考えるのが「大人の意地であり底力であり責任」と言う著者の主張は真っ当だ。人生相談の本は数多いが、人生相談を批評した本は稀少。多数の回答者から掲載許可を取った編集者の情熱も多としたい。

[評者]山村杳樹(ライター)

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