日本文学100年の名作を選ぶ 漏れたのは意外にもあの作家 池内紀×川本三郎×松田哲夫

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 新潮社とサザビーリーグが手を組み、神楽坂に誕生した新業態の商業施設「la kagu」。

「衣食住+知」をテーマとして掲げるこの施設、二階には新潮社が主催するレクチャースペース「soko」が設けられ、文化の発信基地としての役割も担ってゆく。

 そのsokoに長年文学に深く関わってきた三人が集まり、公開編集会議が行われた。ドイツ文学者の池内紀氏、評論家の川本三郎氏、編集者の松田哲夫氏。三人は新潮文庫創刊100年を記念して刊行中の『日本文学100年の名作』の編集委員を務めている。毎月侃侃諤諤と意見を戦わせながら、この100年間に発表された中短編の中から“名作”を厳選し、収録作品を選んでいる。その白熱の編集会議が満員の読者を前に開催されたのだ。

■「掘り出し物」揃いのアンソロジー

 鼎談ではまず、1914年から10年ごとにその時代の名作中短編を一冊のアンソロジーとして選ぶという難題に、三人がどう取り組んでいるのかが語られた。三人は次の編集会議までに毎月数十作品を宿題とされ、それぞれ会議の日までに読了し、どの作品を収録するのか決断してこなくてはならない。 今回の企画では時系列に沿って作品を並べなければならないという難しい制約があるが、アンソロジーの流れに沿った作品を「見つけよう」とするのではなく、たくさんの作品を読みこむうちに自然と適した作品が「見つかる」ものだという。また大作家や文学史に残るような作家の外せない作品を並べながらも、読者にとっての「発見」を大事にし、マイナーで「掘り出し物」と思えるような、現代ではなかなか読むことのできない貴重な作家の作品を盛り込んでいると明かされた。

■誰もが気になる、入らなかった作品たち

 来場した読者からはどのような作品が選外として漏れたのか気になるとの声もあがった。三人は文学史上で評価されていても、時代が変わると読むに堪えないものがあったと語り、大正時代を例に挙げ「新感覚派」「プロレタリア文学」「私小説」「白樺派」あたりはほとんど漏れてしまったと明かされた。特に日本の近代文学の主流と言われていた陰陰滅滅とした「私小説」は三人とも苦手で、文豪と呼ばれるような作家(イベントでは実名)でも漏れてしまったという。

 また当時前衛的な文章と評された作品がちゃちなものに見え「新感覚派」の某大作家なども入らなかったという。映画評論家でもある川本さんは、映画にも「いつみても永遠にいいもの」と「その時代の空気を背負ってみてこそ面白いもの」があると例え、文学作品も同様に前衛的な文章が古びてしまうのはしょうがないと論を展開した。

■新潮文庫はかっこいい!

 過去の新潮文庫のラインナップに話は及び、池内さんは新潮文庫の持ち味は新しい文学の流れを紹介することで格好よく初々しかったと語り、川本さんも当時の学生にとって岩波は古典で「カビ臭い」、新潮は同時代の海外文学を紹介していて新鮮だったと同意した。

 鼎談は大いに盛り上がり、各巻の最後に「読みどころ」を書く苦労、偉大な童話作家宮沢賢治が漏れた理由、村上春樹が1970年代では選ばれない理由、『小熊のプー公』(クマのプーさん)と中川翔子の関係など、ここでしか聞けない裏話が多数披露され、会場に詰めかけた読者も熱心に聞き入っていた。

 la kaguでは今後も新潮社主催の貴重なイベントが多数開催される予定だ。神楽坂散策の足をのばし、他の街では出会えない文学的なイベントを楽しんでみてはいかがだろう。

※このイベントは10月20日に行われました。

日本文学100年の名作第1巻1914-1923 夢見る部屋
日本文学100年の名作第2巻1924-1933 幸福の持参者
日本文学100年の名作第3巻1934-1943 三月の第四日曜
日本文学100年の名作第4巻1944-1953 木の都