「留学生30万人」計画で日本の治安が悪くなる!――出井康博(ジャーナリスト)

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■負の連鎖

 留学生を甘い言葉でそそのかし、日本へ留学させている斡旋業者。そんな業者と結託し、日本語学校や専門学校が留学生を食い物にする。そして3Kの職場が留学生を奴隷のようにこき使う。挙げ句の果て、同胞の窃盗団が彼らを犯罪者へと仕立て上げる。その「エンジン」となっているのが、政府が必死に進めている30万人計画だ。止まらない、皮肉な負の連鎖――。

 外国人留学生事情に詳しい坂内(ばんない)正・ミンダナオ国際大学客員教授が言う。

「大学などと比べ日本語学校は比較的簡単に設立でき、規制も緩い。だから30万人計画のもとで、金儲けの学校がどんどんつくられる。斡旋業者と組み、留学生1人につき、学費や寮費、アルバイト紹介などで年100万円程度の収入を得ている学校も、なかにはある」

 政府がやるべきなのは、その理念が上滑りし、単に数字を追い求めることだけが目的と化している30万人計画の旗を降ろし、留学ビザの審査を厳しくすることではないか。そうすれば悪質な斡旋業者は潰れ、ベトナム人留学生で食いつないでいる日本語学校も淘汰されていく。

 ベトナムでは最近、日本での留学生の困窮生活がテレビのニュースで報じられ、論議を呼んだ。自国の若者が日本で食い物にされているという認識が広まれば、アジアきっての「親日国」の態度も一変しかねない。

 一方、日本にとって留学生は移民予備軍だ。斡旋業者や日本語学校の現状を放置していれば、日本人の気づかないうちに治安も悪化していく。被害もユニクロやヤギだけではすまなくなるだろう。ベトナムと日本双方にとって不幸な状況である。

〈諸外国の成長を我が国に取り込み、我が国の発展につなげる〉。文科省の目論見とは裏腹に、日本は留学生受け入れによって「富」ではなく「悪」を呼び込んでいるのではないか。先の総選挙で自民党が大勝し、ますますアベノミクスの推進、すなわち「経済」の成長が追い求められていくなかで、30万人計画は「犯罪者」を成長させようとしている――。

出井康博(いでい・やすひろ)
1965年生まれ。英字紙記者を経て独立。政治や外国人労働者問題などの取材を続けている。
松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構――外国人介護士の現場を追う』等の著書がある。

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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