真珠湾攻撃から73年、山崎豊子さんの遺作は「パールハーバー」を題材としたものだった 幻のシノプシスが公開

社会

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 2013年9月に亡くなった国民的作家・山崎豊子さんの遺作『約束の海』。『約束の海』には、その基となった幻のシノプシス(概要・筋立て)「パールハーバー」が存在した。そのシノプシスがこの度発売された、山崎豊子全集最終巻に収録され話題を呼んでいる。

 山崎豊子さんと言えば、綿密な取材を基にした社会派の骨太な作品で知られ、特に、大学病院の派閥争いとその権威主義に屈しない医師や患者の姿を描いた『白い巨塔』や、航空会社を舞台に大事故と逆境に立ち向かうサラリーマンを描いた『沈まぬ太陽』など、累計500万部を超える長編小説が多々あるだけでなく、唐沢寿明や渡辺謙らの主演でドラマ化もされ、大ヒットしたことは記憶に新しい。

 その山崎さんが最後の作品『約束の海』で選んだテーマは、やはり「戦争」だった。親子二代、百年近くにもわたる壮大な物語は、米ソ冷戦が終結を迎えつつある1989年から始まる。主人公は、潜水艦で任務に当たる海上自衛官。その父も、真珠湾攻撃で捕虜第一号になった経験を持つ元海軍士官。片や釣り船との衝突事故、片や部下の戦死と戦争捕虜という挫折と苦悩と再生を通して、「戦争をしないための軍隊」というものを探ろうという、山崎版「戦争と平和」と言える意欲作だ。

 その基となったのが今回収録されたシノプシス「パールハーバー」だ。当初の山崎さんのアイデアでは、完成した現在の第1部からではなく、未完に終わった部分の第2部から書き起こされる予定だった。シノプシスによると、「主人公の息子が松山のロシア人墓地を歩きながら、亡き父を思う」という設定で、始められていて、連載冒頭用の4回分として、担当編集者に託されていた。

 しかし、しばらくして、山崎さんの「昔、こんな偉い人がいましたと言う話だけでは、今の若い人たちには読んでもらえないだろう、現代の戦争を巡る話も入れなければならない」という考えから、全体の小説設計に、大幅な変更が行われたため、このシノプシス「パールハーバー」は、お蔵入りになった(が、その設定のいくつかは、『約束の海』の第2部で生かされることにはなっていた)。

 だが、このシノプシスは、作家・山崎豊子の創作の過程として、貴重な資料であり、「山崎節」と言える片鱗が随所に伺えるので、全集刊行に当たり、参考資料として収録することにしたと、担当編集者は語る。

 その他、この全集には、山崎ドラマの俳優たち、仲代達矢、渡辺謙、上川隆也氏らの山崎氏を偲ぶ原稿や、書評、担当編集者たちによる『約束の海』の創作秘話、略年譜なども入っている。今後、山崎文学の謎を解き明かすための、貴重な資料となるだろう。

 また1月4日にはNHKラジオ第2で、『約束の海』執筆秘話が放送される。さる10月4日に、NHK文化センター名古屋教室で、担当編集者が行った講演《『約束の海』秘話と山崎豊子先生についての思い出話》による。

《遺作『約束の海』はこうして書かれた ~最後の編集者が語る 素顔の山崎豊子~》
NHKラジオ第2 1月4日(日)21~22時。[再放送 1月10日(土)6~7時]。

デイリー新潮編集部