山崎豊子の遺したもの――命日が「豊子忌」に

文芸・マンガ週刊新潮 2016年8月11・18日夏季特大号掲載

命日には墓も公開される

 長編小説『約束の海』の執筆中に斃れてから3年、今年も山崎豊子さんの命日(9月29日)がやって来る。折しも現在放映中のドラマ「沈まぬ太陽」は視聴者の熱い支持を受けており、今さらながら「山崎文学」の磁力に驚かされる思いだ。その没後3年を機に、山崎さんの「文学忌」が定められることになった。

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 5月に始まったWOWOWのドラマ「沈まぬ太陽」(上川隆也主演)は現在13話(8月14日放送)まで来ている。上梓されてから17年が経つ作品なのに同局のドラマの中でも史上最高の数字を記録しているという。

「この人気が波及する形で『沈まぬ太陽』(文庫版)は新たに24万部の増刷がかかり、累計で700万部を突破しました。また、山崎さんの絶筆となった『約束の海』も文庫版が発売となり、こちらも累計30万部に達しています」(山崎さんの担当編集者)

 時を超えて読み継がれる「国民作家」とは、かくあるものかと思い知らされるエピソードだが、これまで山崎さんに関しては“メモリアルデー”を作る話は出たことがなかった。

 山崎さんの甥で「山崎豊子文化財団」事務局長の山崎定樹氏(57)が明かす。

「もともと私も叔母の文学忌については念頭にありませんでした。何しろ取材と執筆以外に時間を取られるのが嫌で、小さな記念館を作る時も“まだ生きているのに”と言っていたほどでしたから。とにかく、自分の名刺になるものは作品だけという人だったのです」

 一方で、山崎さん亡きあとも人気は衰える気配がない。そこで、没後3年を迎えるにあたって、命日の9月29日を「文学忌」として、新たに定めることになったのだ。

■今もファンが訪ねてくる

 定樹氏が続ける。

「もうじき叔母が亡くなって3年が経ちますが、今もファンの方が家を訪ねてこられたりするのです。私としては、その思いに応えてあげたい。お墓に関してはすでに兄弟が眠っている寺(大阪市天王寺区の藤次寺)に移し、そこには叔母の墓であることが分かるように墓誌もある。ここは公開日(9月29日~10月2日)を設けて見学もできるようになっています。ファンが拠りどころにする場所として、お墓と墓誌、加えて、文学忌が、そろそろ必要ではないかと考えたわけです」

 気になるのは「文学忌」の名前だが、実はこれがすんなりとはいかなかった。

 当初、作品名や山崎さんの戒名から付けてはどうかというアイデアもあった。たとえば「暖簾忌」。船場などの大阪文化を意識した初期の作品のイメージから候補として検討されたが、後期の社会派の作品のイメージとは少し離れてしまう。『華麗なる一族』と『暖簾』の1字を取って「華簾忌」という候補もあったが、読みにくくなってしまうため、これも選べない。

「そこで叔母の名前から取るのが、一番ピンと来るだろうと思って『豊子忌』に決めた訳です。分かりやすい直球勝負ですね」(同)

 定樹氏によると、「豊子忌」は、講演会などはあるが、まずは作品に触れてみるきっかけになればと言う。

「叔母は“作品があるからそれでいいじゃない”という人でしたから」

 未完で終った『約束の海』の続きに思いを馳せてみるのも悪くはない。

「ワイド特集 鉄の女の『金』『銀』『銅』」より