ビートたけし「おいらが都知事だったら」

国内 社会 新潮45 2014年3月号掲載

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投票率が過去三番目の低さ、四十六パーセントだった都知事選。これぐらいの公約をすれば、関心が集まったのにな。

おいらが知事選に出るわけない

 マック赤坂みたいな泡沫候補も含めれば、十六人も立候補した今回の都知事選。候補者はNHKの政見放送にも出られて好き勝手なことを言える。供託金の三百万円を捨ててもいいから、選挙という道楽をしたいジジイが増えたというだけの話だったね。

 それにしても今回の都知事選は、ちっとも盛り上がらなかった。蓋を開けてみれば、下馬評通り舛添要一が当選して、投票率も四十六パーセントと低調だった。

 舛添のあの顔は東京都知事というより、池波正太郎の『鬼平犯科帳』に出てくる「裏の親分」の顔だな。昼間はまっとうな商人で、夜は大盗賊という奴。ようするに裏表のある人間の顔だよ。

 外国人から見たら、「悪魔」の顔(笑)、だいたいヨーロッパの悪魔って、頭が禿げ上がって、つり目であんな顔をしている。だから、オリンピックで海外から要人が東京に来るのを怖がったりしてね。

 あの人はもともと大学の先生だけどテレビに出るのが大好き。コメンテーターとして、おいらがやっている「TVタックル」にもよく出ていた。

 彼が怪しくなったのは「母親の介護」を言い出したあたりからだね。あの辺から偽善の匂いがしはじめた。

 介護問題を訴えて、一九九九年に都知事選に出たけど、石原慎太郎の前に敗北。捲土重来、参議院に出て当選。二〇〇七年からは念願の厚労大臣も務めた。

 ところが、「介護、介護」と言っていたわりには、実際にはそんなに母親の面倒を見ていなかったことが週刊誌に暴かれてしまった。格好悪い。

 だいたい身内の介護を売り物にするというのは、おいらから見れば、時代に迎合した一番下司な芸なんだよ。今の時代、老人福祉や介護の問題を訴えるというのは当たり前の芸でしかない。

 新しい芸で客を引っ張るのならいいよ。でも、福祉や介護で気を引くというのは、「みんなにウケるから同じ芸をやっています」というレベルでしかないんだ。

 それでも三度も結婚して、婚外子も入れれば五人も子どもがいるというのは立派だよ。精力絶倫、甲斐性があるってことで、今どきの政治家にしては珍しい。そこだけは評価してもいいけどね(笑)。

 新都知事においらは別に何も期待していない。

 小泉純一郎が言っていたように、「誰が都知事になっても違いがない」んだよ。じゃあ、なんで小泉が細川護熙を応援したんだってツッコミもあるけれど、都政なんて事務方がほとんど仕切っている。

 だったら、知事は面白いほうがいい。知事がむちゃくちゃなことを言い出して、事務方が焦ってそれを止めようとするぐらいがちょうどいいんだ。

 老い先短いおいらたちからすれば、田母神俊雄みたいな人に何でも好きなようにやってもらうのも面白かったね。

 東京都に警視庁があるように、東京都だけを守る軍隊があってもいい。「首都防衛軍」とか作ってもらう。中国が本気で尖閣諸島を占領してきた時のことを考えたら、頼りになるのは田母神だよ。

 首都防衛軍には、六十歳で定年になったヒマな老人たちに入隊してもらう。これって、おいらが二十年以上も前に「新潮45」で「落選確実選挙演説」で書いたことで、それを今みんなうすうす感じ始めている。

 生きている目的がなくなった人間が一番ボケやすいから、六十歳以上で徴兵制をしけば、ボケ防止にもなる。とにかくジジイは「俺たちに明日はない」から、怖いもの知らずだ。世界最強の特攻隊になる可能性だってある。

 ジジイの徴兵に加えて、おいらが言っていたことは、女と学生からは選挙権を取り上げる、売春防止法の撤廃、老人福祉全廃、養老院は全て有料、七十歳からの医療費の大幅値上げ ……。こんな過激な公約を掲げる人間がいまだに誰一人出てこないのはどうしてなんだって。

「落選確実選挙演説」は、すべて国政への政策提言だけど、こんなおいらが「都知事選に出馬する」という報道が昨年暮れにされた。

 あれには当の本人が驚いた。

 報道では、知事選出馬で永田町関係者とおいらが会っていたという。しかし、その日は、おいらは日本にいなかったんだよ。トム・ワトソンとアメリカのペブルビーチでゴルフをやっていた。

 おいらの都知事選出馬は全く根も葉もない噂なんだけど、おいらの名前が挙がるのは、「TVタックル」の司会をやっている影響があるかもしれないね。

 自民党から民主党に政権を移したのも「タックル」を代表とするメディアだし、民主党がダメだからと、元の自民党政権に戻してしまったのもメディアだった。

 すると、そのメイン司会をやっているおいらは微妙な立場にいることになる。同じ司会者でも「みのもんたが都知事に立候補」となると、地位と名誉が欲しいだけだろうと、誰もが「なんだ、あんなもん」となる。

 おいらの場合は、「大穴」として報道する分には、みのもんたよりかは真面目で面白そうだと思われたのかもしれない。

 でも、おいらには一度だって、どの政党からも「立候補しないか」という声はかかったことはないんだよ。おそらくどんな選挙でも当選しちゃうし、何を言い出すかわからないからね。

 ただ、おいらじゃなくて兄貴の大(まさる)には過去にアプローチもあったみたいだ。

 石原知事の二期目か三期目の選挙の時には、兄貴の大が都知事選に出馬するという噂があった。その話を聞きつけた石原慎太郎が「まさか本当に出るんじゃないだろうね」と、自ら確認をとろうとしたという話もある。

 政治家にとって、何より怖いのは、やっぱり浮動票を食われるような候補が出馬することなんだよ。

 そういえば、今回の選挙では、昨年暮れに衆議院議員を辞職した東(東国原英夫)の出馬も随分と取り沙汰されていた。

 おいらから見ると、あいつは都知事には色気があったと思う。じっくり狙っていくつもりだったんじゃないか。

 しかし、猪瀬がこんなにも早く辞職するとは思っていなかった。事態が急に変わったので、準備が間に合わなくなったというのが本当のところだと思うね。

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