ビートたけし「おいらが都知事だったら」

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猪瀬VS.徳田が見たかった

 今回の候補者の顔ぶれは今一つだったけれど、おいらが選挙参謀だったら、絶対に猪瀬を再出馬させるよ。

 徳洲会から五千万円借りた件で、「私は政治的にアマチュアでした」と謝ったわけだから、今度は「プロとして勝負します」と立候補すればいい。

 ミスは誰だってするもんだからね。

 おいらもフライデー襲撃事件やバイク事故を起こしたけれど、復帰した。みのもんただって板東英二だって絶対に芸能界に戻ってくると思うよ。時間がかかるかどうかだけの違い。だから、猪瀬も「都民の信を問う」ともう一度出ればよかったんだ。

 しかし、猪瀬が五千万円を持ち運んだというカバンを都議会で公開したのには笑ったな。

 五千万円と同じ体積の箱をカバンに入れようと実演して失敗。都民の失笑を買ったけれど、あれだって気にする必要はない。逆手にとって、選挙カーをカバンの形にして、そこから五千万円がちょっとはみ出ているデザインにする。

 開き直って、その選挙カーの上で演説するぐらいのことはしてほしかったよ。

 あとは猪瀬と並んで徳田虎雄にも立候補してもらいたかった。

 選挙演説は文字盤を目で追う。でも、それを読み取る人間が「都民税は無税にします」とか、自分に都合のいい勝手なことばかり言ってしまう。徳田が「何を言っているんだ」と睨むんだけど、文字読んでいるんだか、本当に睨んでいるんだか誰も分からない。

 喋れないはずの徳田虎雄が声を出して選挙演説していると思ったら、隣に芸人のいっこく堂がいて、腹話術で演説していたというのも笑える。

「TVタックル」に出ていた政治評論家の三宅久之さんが存命だったら面白かった。頑固オヤジの三宅さんが都知事候補で出たら、一発で受かったんじゃないか。

 選挙公報を見ると、どの候補者も老人福祉とか偽善的なことばかり言っている。「老人に福祉なんかいらない。早く死ね」という奴は誰もいない。

 三宅さんなら「老人なんかに気を使う必要はない。ジイさんにだって誇りがあるんだ。年金も返上する。俺たちに構うな」と言ったかもしれない。そうしたら、説得力が違った。

 若い奴らが年寄りの介護だとか福祉とか言い出すから、インチキくさくなる。どうせそんな気はないんだから。あるんだったら、自分の親の面倒を見ろよ。

 そこへ三宅さんのようなジイさんが出て行って、「自分の最期は自分で考える」とか、当たり前のことを当たり前のように言ってくれると格好いい。

 そういうジジイが出てこないね。出てくるジイさん、出てくるジイさん、情けなさそうな人間ばかり。

 力のあるジイさんがいなくなってしまった。細川なんて七十六歳で十分にジイさんなんだけど、小泉元首相の応援演説を聞いてもらい泣きしてしまう。見ているだけで嫌になってしまうよ。

 おいらは都知事なんてやる気はないけれど、新知事に一つ二つ政策提言をさせてもらおうか。

 よく話題に上る東京カジノ構想。あれはいいと思うけれど、その電力はやっぱり原発だ。東京都内に原発を建てて、その電力で補う。原発推進派の人はそれぐらいやってもらいたい。

 ラスベガスと同じように、ひとつの歓楽街をそのまわりに作ってしまう。カジノが出来る予定のお台場を江戸時代の出島のようにしてしまう。

 出るのにも入るのにもお金を取って、内部では法律も別。売春もOK。出島というより、もう現代版「吉原」だ。

 東京の財政を豊かにするという意味では、首都高F1レースはどうだろう。首都高を封鎖して、フォーミュラカーがグルグル回ったら、大したレースになる。

 土曜日の夜中にはサーキット族とかいって、首都高を回っている奴らがいるだろう。それで大事故も起きていないんだから、やってできないはずがない。

 四年に一度のオリンピックで経済効果何兆円と騒ぐぐらいなら、F1ならば毎年開催だからもっとすごい効果がある。

 東京都の財政を潤す政策は、いくらでも考えつくよ。

 そうした観点から言っても、築地の移転はやめてもらいたいね。

 むしろ築地を世界文化遺産に登録するぐらいのことを考えたほうがいい。施設が古くなったというのならば、壊れたところから直していけばいいだけの話だ。

 築地は海外の観光客からも人気があって、マグロのセリを見に来る外人がたくさんいる。ついでにマグロの解体ショーを見せて、その場でも食べさせる。一大ナマモノ海鮮レストラン街を作ったらどうだ。ディズニーランドと同じぐらいの入場料だって取れると思う。

 だいたい、ああした施設は下手に移動させないほうがいいんだ。客商売の場合は、移動してダメになってしまった例は昔からたくさんある。

 ストリップ劇場やソープランドなんかも場所を移動したり、内装を綺麗にしたりすると、客が来なくなってしまう。

 食い物屋でも、昔、青山でおでんの屋台を引いている有名なオヤジさんがいた。屋台で金を貯めては、綺麗なおでん屋の店舗を持つんだけど、必ずお客が来ないで潰れる。その繰り返し。

「オヤジさん、屋台で儲かった金で、何で店なんか持とうとするの」と聞いたら、「だって、店持つのが夢だから」と。

 気持ちは分からないでもないけれど、場所を変えて新しくすればいいってもんじゃないんだよ。

 屋台だろうが何だろうが、食べてうまければ、保健所とか食品衛生法とか、そんなのだって、どうでもいい。

 腹壊したら、「あそこでは二度と食わない」と思えばいいだけ。食中毒で大騒ぎしすぎるから、ユッケやレバ刺しが食べられなくなったじゃないか。

 屋台のラーメン屋やおでん屋って、屋台の横にバケツがあって、そこでどんぶりや皿を洗って、さっと拭くだけ。清潔だとは言いがたいけど、うまかった。

 清潔ばかりを気にしているけれど、一番怖いのは頭のおかしい奴が冷凍食品にパッと毒物入れてしまうことだからね。

 新宿歌舞伎町だって、石原都政の浄化作戦で、すっかりつまらない街になってしまった。東京オリンピックがあるというので、警察はよりいっそう浄化作戦に力を入れるというから、ますますつまらなくなるんじゃないかな。

 もっと怪しげな街だった頃のほうが、新宿はよかった。新宿を昔のような怪しい街に戻してもらいたいよ。

 ポン引きがひどくなって、犯罪も悪質化していったから取り締まりを厳しくしていったんだろう。だけど、取り締まられる側も裏をかこうとするから悪循環。デフレスパイラルと同じで、余計ひどくなっていくような気がする。

 今は文化的な悪がいなくなっちゃった。いかがわしくても、洒落のきいた悪がいるんならいいけれど、今は洒落がきかない。単に金を脅して取るだけ。昔は「ああ、やられちゃったな」って笑えるような詐欺があった。

 浅草なんか見世物小屋が一杯あって、誰もはなから信用していないから騙されても怒らない。

「オオイタチがいる」と言うから中に入ってみると、大きな板に血がついているだけ。「死刑囚」という見世物もあった。檻の中に日本刀を持ったオヤジがいて「殺すぞ」と怒鳴っている。その死刑囚が休憩時間に、ろくろ首のおばさんと暢気にお茶を飲んでいるんだから、笑っちゃう。

 興行だって、「エノケソ来たり!」と看板にある。「エノケン」かと思って入場したら別人。「ン」が「ソ」になっていた。他にも「美空ひばり」かと思ったら、「美空ひばし」だったとか。

 そんな時代は、ぼったくられても本人の自己責任で、かえって面白い思いをすることだってあった。新宿なんかも、そういう笑える街になってくれたらいいんだけどね。

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