個性溢れる誌面は門外漢にも魅力的/『Mac世代におくるレイアウト術』

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 女性ファッション誌「アンアン」が創刊されたのは一九七〇年。この斬新な雑誌のアートディレクター堀内誠一の助手として著者は創刊に参加する。以後、著者は堀内とコンビを組み、「ポパイ」「ブルータス」「オリーブ」といった個性溢れる雑誌を次々と手がけていった。本書は豊富な実例をもとに、雑誌のアートディレクションの秘訣を解き明かす。誌名、判型、表紙といった基礎から、書体、字組、見出しなどのデザイン構成要素、取り扱う対象別のデザイン実例まで、採り上げられている項目は多彩で、これからブックデザインを学ぼうとする者にとっての格好の教科書といえる。
 実体験を踏まえた著者の雑誌論も鋭い。例えば、現今の雑誌に占める写真の量に疑問を呈し、「表現方法といえば文章以外には写真しか頭にないのはスタッフがほかの方法を検討もせずに決めてしまっていて、それはすべての図像それぞれの可能性に対して鈍感に対応をしているだけではないか」と指摘する。また、イラストの重要性を説き、「絵の想像力、言葉は悪いが妄想力、幻想性に感じる可能性を雑誌が減らしてしまえば雑誌の魅力を捨てることになる」と書く。
 しかし、なんといっても本書の魅力は、惜しげもなく盛り込まれたカラフルな表紙や記事の数々にある。ページをめくるごとに、時代を彩った雑誌の匂いや佇まいが、実際にその雑誌を手にした時の記憶と共に甦ってくる。特に味わい深いのは「手書き」(著者がパソコンを使うようになったのは還暦を過ぎてからという)のレイアウト指定紙。ひとつひとつのページに、いかに緻密な神経と知的な配慮が注がれていたか、いかに熱い情熱が紙面レイアウトに込められていたかがひしひしと伝わってくる。「文明はデザイン(つまり物それ自体)でしか知り得ない」と信じる著者が、ときには時代に先行し、ときには時代と併走してきた旅程は、デザインの門外漢にとっても魅力的だ。

[評者]山村杳樹(ライター)

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