東京新聞・望月記者の「嘘」が告発された  背景にある「思い込み」の強さ

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常識なき世界

 新聞記者としては異例の知名度と人気を誇る東京新聞の望月衣塑子記者がまた新たな話題を提供している。

 新たに出した対談本で語っていることがデタラメだ、との告発を当事者から受けてしまったのだ。

 すでに望月氏と出版社は過ちを認めて謝罪し、回収を決めたが、問題の本質はどこにあるのか――。

 指摘を受けたのは望月氏が内田樹氏と複数回行った対談をまとめた『常識なき世界を生き延びるために』(朝日新聞出版)。

 この対談内で取り上げられた高校生ジャーナリストの川中だいじ氏が、自身のXで自分に関する記述がほとんど捏造や嘘である旨を投稿したことで、話は一気に広まった。

「捏造」「嘘」だけに詳細をここでは繰り返さないが、川中氏自身の人生について望月氏が語っている部分が間違っていることに加えて、なぜか彼の体験が望月氏の中学生の息子の体験談にすり替わっている部分もあるという。川中氏は捏造、嘘があることにショックを受け、またその対応に多大な労力を費やすことを強いられていることに憤りを感じている旨を投稿している。SNS上には川中氏に同情し、望月氏を厳しく批判する声が多く見られる状況だ。

 川中氏からの指摘を受けて、出版社、望月氏、内田氏は謝罪。版元である朝日新聞出版は訂正をホームページに掲載したが、それでは収まらず、結局回収を進めることとなった。ただ、同書には内田氏が川中氏について言及している部分もあるのだが、そこについて川中氏は特に指摘していないようだ。

「出版社や校閲は何をしていたのか」といった批判もあるのだが、発言のほとんどは望月氏が直接見聞きした話のようなトーンで語られている。シンプルに見れば、著者である望月氏自身がきちんとチェックするという基本を怠ったというのが真相だろう。

 なお、あまり伝えられていないが、川中氏について望月氏は決して批判的に語っているわけではない。「気概を持っている若者」の代表として取り上げている。該当する章のタイトルは「この国の希望」だ。

 しかし川中氏は、たとえ全体として褒められているにしてもエピソードがことごとく間違っていることで深く傷ついたと述べている。ジャーナリストとしては事実誤認を見逃すこともできないだろう。抗議するのも当然だ。

著書が多すぎる

 望月氏はなぜ著者として行うべきチェックをしなかったのだろうか。刊行前にゲラをチェックするのは著者として最低限の責務である。ましてや彼女の本業の基本は、ファクトにこだわることだ。

 一つの要因として考えられるのは、望月氏の多忙ぶり、あるいは量産ぶりだ 。

 ジャーナリストの烏賀陽弘道氏は著書『プロパガンダの見抜き方』で望月氏についてこのように評している。彼女の初期の著書『武器輸出と日本企業』(角川新書、2016年)を読んだ烏賀陽氏は、優れた調査報道だと思ったという。しかし、その後官邸の記者会見などで知名度が上がり、本人が表舞台に出るようになったことについて、いささか皮肉まじりにこう述べている。

「記事を書いた記者がどんな顔だとか、有名かどうかとか、ジャーナリズムの原則からすれば、まったく無意味である。性別すら意味がない。

 さて2024年5月現在『アマゾン』内で『望月衣塑子』を入力、検索すると、単著・共著合わせて書籍が42件もヒットする。その多くが望月記者自身の顔が写った表紙や帯をまとっている」(同書収録「『望月衣塑子記者』というリアリティ・ショー」より)

 本を量産できるのは人気や能力の高さの証かもしれない。ベストセラー作家の中には、ハイペースで作品を執筆している人も多い。しかし事実を丹念に調べて提示するのが本分である記者という仕事と量産との相性は決して良くない。

 望月氏自身の意向はさておき、いつからか彼女はある種のプロパガンダのキャラクターとして使われるようになった、と同書で烏賀陽氏は指摘している。

 さて2024年5月現在『アマゾン』内で『望月衣塑子』を入力、検索すると、単著・共著合わせて書籍が42件もヒットする。その多くが望月記者自身の顔が写った表紙や帯をまとっている」(同書収録「『望月衣塑子記者』というリアリティ・ショー」より)

 本を量産できるのは人気や能力の高さの証かもしれない。ベストセラー作家の中には、ハイペースで作品を執筆している人も多い。しかし事実を丹念に調べて提示するのが本分である記者という仕事と量産との相性は決して良くない。

 望月氏自身の意向はさておき、いつからか彼女はある種のプロパガンダのキャラクターとして使われるようになった、と同書で烏賀陽氏は指摘している。

「中国と戦おう」という人がどんどん増えている?

 もう一つ見逃せない要因は、望月氏の思い込みの強さかもしれない。記者会見での決めつけのような質問とも言えぬ意見の披露はたびたび話題になっていた。

 今回問題になっている『常識なき世界を生き延びるために』には、こんなやり取りがある。

 望月 ただ私は今、「中国と戦おう」という勇ましい人たちがどんどん増えている感じがします。
 内田 そんな連中、誰も自分で戦う気なんかないですよ。「一戦も辞さず」というような勇ましいことを言っているやつで、実際に戦う気がある人間なんか一人もいません。いれば、今すぐ仕事を辞めて自衛隊に入隊しているはずです。自分ではない誰かが戦ってくれると思っている。

 望月 その能天気ぶりがかえって恐ろしくて……。(後略)

 どうやら望月氏の脳内では「中国と戦おう」という人が一定数日本に存在しており、しかも「どんどん増えている」らしい。比喩ではなく、文字通り、武力で「戦おう」という人である。しかし、これがどこの誰を指しているのか、どのような場面のどのような発言からそれが類推されるのか、根拠は一切示されていない。

 たしかに反中感情を持つ日本人は少なくないだろう。断交しろと言わんばかりの人もいる。しかし武力衝突辞さずと言う人は滅多に見ない。

 中国軍が力を増していることは周知の事実だからだ。かなり勇ましい論調が目立つタイプの雑誌ですら「開戦」を訴えてはいない。一部ネット上にそのように言う人はいても、決してマジョリティではない。おそらく変わり者である。

 一体、望月氏は誰のどのような言動からこのように感じて、恐ろしいと言うのだろう。「どんどん増えている」が彼女の思い込みの可能性はないだろうか。

東京新聞の「前科」

 この「思い込み」に関連して想起されるのが、望月氏の所属する東京新聞の「前科」である。今年元日に東京新聞が掲載したコラム〈「熱狂」に歯止めを〉は次のように始まる。

「『中国なにするものぞ』『進め一億火の玉だ』『日本国民よ特攻隊になれ』。ネット上には、威勢のいい言葉があふれています」

 執筆者は同紙の特別報道部長。このコラムに対して、掲載直後から疑問の声が上がった。

 そんな「威勢のいい言葉」ってどこにあるのか? というものだ。そのような言葉がどこかにあったとしても、発言者が本気でそのように言っているものはほぼ見られず、ましてや「あふれて」いるような状況が存在しないことは明らかだった。

 要は特別報道部長が、自らの主張に都合のいい「事実」を勝手に脳内で作り上げたということのようだ。結果、同紙は新年のコラムを削除・謝罪をすることとなったのである。

 この東京新聞のコラムと望月氏の「勇ましい人たちがどんどん増えている」とに類似性を感じるのは難しいことではあるまい。

 事実に基づかず、脳内で話を作り、勝手に論評する。上司の炎上は、望月氏の教訓とはならなかったのか。「常識なき世界」を生きるのはかくも難しい。