「睡眠薬より優先されるアプローチ…」日本で保険適用が始まった「不眠の認知行動療法」で寝付けない夜を根本から治療する

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 人間は目覚めたくないから夢を見ている――。ジグムント・フロイトの至言であるが、いまや現代社会では、十分な睡眠それ自体が「叶えられない欲望」と化しつつある。目下、求められているのは、悪い寝付きを改善する新たな“哲学”ではないだろうか。今回、専門家が紹介するのは、私たちが睡眠について抱きがちな「思い込み」を解消することで、不眠を根本的に治療する手法である。なんでも世界各国では、睡眠薬に代わり主流のアプローチになっているという。
  
〈2026年11月3日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました〉

睡眠薬より優先される治療

 メディアではしきりに「8時間睡眠」などが推奨されるが、その通りに眠れるのなら苦労はない。「睡眠時間」を意識することで、かえって眠りが遠ざかってしまうこともあるから、我々の悩みは厄介なのだ。求めるほどに、離れていく――。睡眠の問題は時に、禅問答のような様相を呈するものである。

「動物の場合は、眠たくなったら寝るだけですが、人間、特に現代人は、睡眠を “次の日の糧”のように客観的に捉える傾向があります。だからこそ、事情は複雑なのです」

 そう語るのは、東京家政大学教授で、「不眠の認知行動療法(CBT-I)」の第一人者である岡島義氏だ。

 岡島氏が専門とする同療法は、世界の潮流にあわせて、今年の6月より、国内でも重症患者を対象として保険適用が開始されたことで注目を集めている。なんでも、寝付きをめぐる前述のジレンマに、直接働きかける治療であるというのだ。

「不眠に悩む人の多くは、『最低8時間は眠らないといけない』『眠れなかったら遅くまで寝て取り戻さないといけない』など、これまでの人生で様々な“思い込み”を学習してしまっている傾向があります」

 とは、東京大学大学院で同療法を研究する、精神科医の古川由己氏。

「これらの考え方は、焦りや不安を生むため、不眠をむしろ悪化させてしまいます。治療では、凝り固まった認知を解消しながら生活リズムを見直し、不眠の原因を根本から治すことで、寛解を目指すのです」(同)

 欧米では既に、睡眠薬に代わり、“主流”の療法になっているという。

「睡眠薬には、即効性がありますが、あくまで対症療法に過ぎません。長期的に服用する患者が多く、依存症のリスクもある。一方、不眠の認知行動療法は、効果が数年にわたって持続することが海外の研究でも示されています。2016年にアメリカ内科学会が不眠治療の『第一選択』と位置付けて以降、今や日本以外のほとんどの国で、睡眠薬より優先されるアプローチなのです」(同)

 海外では標準になっているというその治療の、具体的な内容はどのようなものなのだろうか。

不眠の認知行動療法の「二大巨頭」

「不眠の認知行動療法は、外来に通わなくても自分一人で始めることができます」

 と、前出の古川氏。

「まず、全ての基本となるのは睡眠の現状を把握することです。たとえば、『睡眠日誌』。ベッドの上で横になっている時間(臥床時間)や、実際の睡眠時間などを毎朝記録することで、睡眠の実態を改めて認識することから始めます」(同)

 その記録を基に把握されるのが、日々の「睡眠効率」である。仮に、ベッドに横たわっている時間が8時間で、実際の睡眠時間が6時間であるとする。その場合、睡眠効率は「6時間÷8時間」で75%と算出される。寝つきが悪い、途中で起きてしまうなどの悩みを抱える方は無論、この数値が低い傾向にある。

 これらの数字を踏まえて、次に「臥床時間制限法」と「刺激制御法」に取り組む。

「この2つは、不眠の認知行動療法における“二大巨頭”と呼ばれており、どちらか一方だけでもかなりの効果が期待されています。私の場合は、患者さんとカウンセリングをした上で、初診から『臥床時間制限法』を始めるように提案することもあります」(同)

 その手順は次の通りだ。

「まず、現状の睡眠時間に30分を足した時間を計算し、その結果をベッドの上で横になる時間として、固定します。ただし、最低でも6時間は横になるようにしましょう。朝起きる時刻は一定とし、そこから逆算してベッドに入る時間を決めるのです」(同)

鬼か、と思われるが……

 治療期間中は、昼寝も控えることが推奨される。

「背景にあるのは、眠さを夜のために貯めておく、という考え方です。“早寝早起き”という言葉が浸透しているためか、多くの方はまず寝る時間を一定にしようとします。しかし、結局うまく寝付けず、朝や昼に不足分を取り返すことになる。結果、次の夜も寝付けずに睡眠効率は低くなります。治療ではこの悪循環を断ち切るため、臥床時間を制限して、夜の睡眠効率85%を目標にします」(同)

 しかし、かなり意志の力が必要な治療にも思える。

「そもそも眠れなくて治療をしているのに眠りを制限しろなんて、鬼か、と思う患者さんもいらっしゃいます。実際に、多くの患者さんにとって、最初の1週間は寝不足感が辛いものになります。しかし、疑心暗鬼でも、まずは1~2週間なんとか続けてもらうと、8割程度の方はかなり睡眠の満足度が高まり、日中も過ごしやすくなったと感じてくれます」(先の岡島氏)

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 新潮QUEで配信中の記事【「不眠の認知行動療法」で睡眠にまつわる“思い込み”を解消する】では、「二大巨頭」のもう一角を成す「刺激制御法」、不眠の認知行動療法の中でも手軽に始められる手法、日ごろ良かれと思ってしがちな不眠を悪化させる「思い込み」について、より詳しく報じている。

デイリー新潮編集部