「妊婦の腹を切り裂いて胎児を取り出す場面も」 「VIVANT」への「反中」批判を吹き飛ばす中国発プロパガンダ映画の無茶苦茶な内容
最終回に向けてストーリーの展開も加速している「VIVANT」(TBS系)に対して、「反中国プロパガンダだ」といった批判の声が一部で上がっている。日本に敵対する中国のスパイ組織「シンシー」の描き方その他が、中国を貶めているというのだ。
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誰がどう見てもフィクションの娯楽作で、中国への感情が今以上に悪化するとは思えない、というのが一般的な受け止め方のせいか、こうした批判はあまり強い支持を得ていないようだ。「007」や「ミッション・インポッシブル」を見て中国やロシアへの印象を悪くするなどと真面目に思う大人は少ない。あれを本気にしている人は少し冷静になったほうがいい。
そもそも中国がこの種のことについて文句を言える筋合いではないというのは常識だろう。彼らの「反日」作品製作への熱量は広く知られている。しかも中国の場合、タチが悪いのは、「VIVANT」のような明らかなフィクションではなく、史実を取り入れて国家ぐるみで展開している点である。
昨年夏、中国で公開された映画「731」も日本を徹底的に悪者に描く「問題作」だった。隅から隅まで反日一色というこの映画、日本人から見ればツッコミどころ満載ながらも現地では大ヒットを飛ばしたのだという。
この作品を知れば、「VIVANT」に目くじらを立てることの不毛さがよくわかるかもしれない。以下、見てみよう(2025年10月6日配信の記事をもとに再構成しました)
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2025年9月18日に中国で公開された「731」は、初日の興行収入だけで60億を突破し、21日には230億円を超える大ヒット作である。
731とは第2次世界大戦期の大日本帝国陸軍に実在した研究機関「731部隊」を指す。満州に拠点を置いたこの機関は、秘密裏に細菌兵器を研究し、捕虜を使っての人体実験も行っていたとされる。
極寒の満州で下駄?
上映時間約120分の本作は、731部隊の残虐性をひたすら描き出そうとする作品だ。中国事情に詳しいフリーライターの西谷格氏によると、
「9月18日は満州事変の発端となる柳条湖事件が起きた日で、日本でいえば広島に原爆を落とされた8月6日のようなシンボリックな日付です。この日に公開を合わせてきたことには強い反日の意志を感じます」
映画の主人公は、中国人の中年男性。外国人相手に浄水器を売ろうとするが、それは日本陸軍から盗んだ品だった。軍にバレた主人公は731部隊の「特設監獄」に強制連行され、以降、おぞましい実験の数々を目撃することになる。
「題材が題材なので、シリアスなドキュメンタリータッチの恐怖映画だと思い、恐る恐る見に行きました」
と言うのは、さる日本人ジャーナリストだ。
実際、現地のポスターなどにも〈18歳未満は鑑賞するか慎重に選択してください〉との注意書きがあるそうで、その説明どおりに、
「凍傷になった手に熱湯をかけて皮膚をドロドロにしてはがす場面、妊婦の腹を切り裂いて胎児を取り出す場面などは、とても見ていられなかったです」(同)
ところが、だ。
「憲兵隊長が若くて美しい女性で、非常に拙い日本語を喋る。看守たちも黒い袴姿で下駄を履いている。なるほど、これはフィクションなんだなと感じられ、総じてちょっと気抜けして眺めていました」(同)
当時の関東軍に女性士官がいたという記録はない。また、前半部は雪が降りしきる季節という設定だが、満州の冬は最低気温がマイナス40度を下回ることも。袴に下駄ではさすがに鬼の日本兵にとっても、かなり厳し過ぎやしないか。
収容所の廊下で花魁道中
本作にはなぜか絢爛(けんらん)に着飾った日本人女性も登場。
「何の脈絡もなく唐突に、収容所の廊下で花魁道中が始まるのです。しかも、付き人があんどんや番傘まで持っていて、かなり本格的。収容所の捕虜たちも驚いていましたが、観客の私も驚いてしまいました。あれは一体、何だったのか」(前出のジャーナリスト)
劇中での説明は一切なかったという。軍への慰安訪問か、それとも捕虜に日本の文化を見せつける深謀か。よく分からないが、トンデモ演出はさらに続く。
「中庭で捕虜たちに綱引きをさせ、負けた方が処刑されるというシーン。刑場の脇では、ちょんまげに白装束の男たちが三味線を弾いているんです。何だかカオスな状況でした」(同)
いやいや、それにしても機密性の高い731部隊に花魁やら三味線弾きやら、民間人が出入りし過ぎではないかと心配にもなる。
「世界征服」計画
物語の中盤以降、主人公らは脱獄しようと模索する。
「日の丸に『必勝』と書かれた鉢巻きを頭に巻き、ふんどし姿になった日本兵が脱走を試みる捕虜を止めようとし、取っ組み合いになる一幕もありました。それはもうシュールでした」(前出のジャーナリスト)
緊迫する現場にそぐわないほど誇張された日本文化の数々。出来の悪いパロディーとしか思えないが、
「悪事に及んだのが日本人だと強調したいがため、過剰に“日本の要素”を詰め込んだのでしょう。日本文化それ自体に嫌悪感を抱かせたいという意図もあるのかもしれません」(西谷氏)
また終始、731部隊長の石井四郎中将を象徴的で分かりやすい“悪”として描くのも特徴だ。
終盤、石井中将はこんなセリフを呟く。
〈世界征服の計画はまた一歩前進した。近いうちに自由の女神、万里の長城、モスクワの赤の広場、パリのエッフェル塔、ことごとくわが支配下に置かれよう〉
ご満悦の表情で「はっはっは」と哄笑(こうしょう)し、いかにも秘密結社のボスといった風情だ。実際に世界征服なるものまで企んでいたのか、その点は戦後の研究に見当たらず、もはや本人に聞かねば分からないが、
「中国政府は日本軍が世界征服を企んでいたと学校で教育しています。反日映画に出てくる日本軍は必ずと言っていいほど世界征服を口にするんです」(西谷氏)
なぜ反日プロパガンダに躍起に?
報道では、映画公開初日は中国各地の日本人学校が相次いで休校したという。なぜ今、中国は反日プロパガンダに躍起なのだろう。
「ここ数年、中国はアメリカとの間で激しい対立を演じ、反日運動を展開する余裕まではありませんでした。関税を巡る対立がひとまず落ち着いたことで余力が生じたのでしょう。もちろん、国内の経済状況が芳しくなく、共産党への不満が生じていることも関係していると思います」(西谷氏)
だが果たして、B級映画ともいうべき本作で反日感情を惹起(じゃっき)できるものか。
周囲を気にしつつ上海で見たという日本人女性は、
「私の上映回では観客が10人ほどしかおらず、途中で退出する客もいて、およそ大ヒットしている映画だとは思えませんでした」
そうもらすのだが、西谷氏が指摘するには、
「反日映画はB級エンタメ的なものになることが多々あります。例えば、女性の軍人キャラがド派手なアクションをするなんていつものこと。映画を普段見ない農村部の人たちを飽きさせないためです。ただ、タチの悪いことに『731』は最後に日本人の証言映像を流し、映画が事実であることを強調するつくりになっている。反日映画によくある手法で、見終えた者にすべて事実だと思い込ませてしまうのです」
やはり笑っている場合ではない。さすが筋金入りの中国の反日映画には、蓄積に基づく、洗脳のための、したたかな計算があるのだ。


