朝ドラ「ブラッサム」初週になぜ引き込まれたのか “嫌な父親”で終わらせない脚本と「渡部篤郎」の凄み

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第1週は種播き

 朝ドラことNHK連続テレビ小説「ブラッサム」が6回まで放送された。まだ助走段階にあり、評価するのは早い。とはいえ、作品の色合いはおぼろげながら見えてきた。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 朝ドラの制作経験がある制作者はこう語る。

「『ブラッサム』はまだ物語の種を蒔いている段階。作品の良し悪しや今後の見通しを語るのは早過ぎますよ」

 朝ドラの序盤には、大きく分けて2つのパターンがある。まず、いきなり物語に入り、進行過程でヒロインらの個性を見せるタイプ。前作「風、薫る」などがそうだ。

 もう1つはヒロインを子供時代から描き、人間性の根幹を伝え、その後につながるエピソードを積み重ねるタイプ。「ブラッサム」などがそうだ。第1週の5回は、主人公・葉野珠(石橋静河、幼少期・村上蘭、老齢期・加賀まりこ)と、その家族たちのスケッチに費やされた。

 第1週の時代設定は1907(明治40)年。子役の村上が演じる珠は、10歳の小学生だった。この年、足尾銅山(栃木県)では大規模な労働争議が起きた。東京株式相場は暴落し、日露戦後恐慌が始まる。社会は大きく揺れ動いていた。

 珠たちが住む山口県岩国市は至って平穏だったが、例外もある。珠が暮らす葉野家だ。父親の清治(渡部篤郎)が、世間から「放蕩無頼」と後ろ指を指される厄介な人物だったからだ。

 清治は定職に就かず、近所の人との関係は険悪だ。家の中では暴君として君臨しており、珠と継母のリョウ(国仲涼子)に対し、身勝手極まりない振る舞いを続けていた。

「珠と清治の関係はかなり特殊。それを表現するエピソードは良く出来ていました。脚本家が朝ドラ経験者ということもあり、限られた放送時間の中で、どう描けば2人の関係が伝わるのかが分かっている」(前出・制作者)

 脚本は櫻井剛氏(49)。「ブギウギ」(2023年度下期)のうち、3分の1を書いた。力のある脚本家である。

 制作者が特に讃えるのが、作文をめぐるエピソードだ。第2回、珠は教師から綴り方(作文)の宿題を出された。題は「父について」だった。

 ほかの生徒たちは無邪気な笑みを浮かべたが、珠は沈痛な面持ちになる。清治には誇るべき点がない。好きなところも見当たらなかったからだ。

 清治は生家の造り酒屋の家督相続権を弟の葉野清重(三浦誠己)に譲り、その代わりに生活費を受け取っていた。働かず、昼から酒を飲み、珠とリョウを奴隷のように扱う。

 珠が清治の羽織の洗い張りに失敗したときには、蔵に一晩中閉じ込められた。清治が溺愛しているカナリアのエサが切れてしまったときには、雨の降る夜中であっても、珠に買いに行くよう命じた。

 清治は「裸足でいけ」と言った。草履が駄目になるかもしれないからというのが理由だが、それだけではない。清治は、自分の憤懣を珠にぶつけている。

 清治は、生家を継げなかった原因はすべて清重にあると考え、恨みを抱き続けている。肉親を憎む屈折が荒んだ生活を招き、誰にも心を開かなくなった。

大作家の片鱗

 作文が書けない珠は頭を抱えた。しかし、ある夜、カナリアと寂しげに向き合う清治を見た瞬間、筆が動き始める。第3回のことだ。

 清治はやさしい眼差しをしていた。普段は体から放たれている刺々しさも消えていた。珠は、初めて清治の内面に触れた気がした。そして、一気に作文を書き上げた。

 作文は、父親たちを学校に呼んで読み上げることになっていた。普段は珠に関心を示さない清治も来た。第4回である。

 珠が読む順番になった。作文の前半は、清治への不満や批判だった。「父は私をよく叱ります」。周囲の父親たちは失笑し、清治を冷ややかな目で見た。ところが、後半は空気が一変する。

「父は縁側に一人座り、カナリアをじっと見ていました。そこに、放蕩無頼の徒は見当たりませんでした」

 人間は多面的であり、清治にも厄介者とは異なる一面があるのだという意味だった。ほかの生徒の父親たちは、文章の真意が分からず、きょとんとした表情を浮かべた。

 だが、清治には分かった。手を叩き、大笑いして喜んだ。孤独な清治は、珠が自分の一部分を理解していると思ったのだ。

 珠のモデルは1996年に98歳で亡くなった宇野千代さんである。『薄墨の桜』や『生きて行く私』などを書き、文化功労者に選ばれた大作家だ。珠もこれから大作家となっていく。そのために欠かせない、人間を見抜く力が、早くも自然な形で描かれた。だから、前出・制作者はこのエピソードの脚本を称賛した。

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