朝ドラ「ブラッサム」初週になぜ引き込まれたのか “嫌な父親”で終わらせない脚本と「渡部篤郎」の凄み
泣かせた話
制作者は、演出面にも光るところがあったという。リョウが誤ってカナリアを逃してしまったエピソードの中で見られた。第4回と第5回だった。
清治はリョウに向かって「どうするつもりじゃ!」と怒鳴り、鳥かごを投げつける。リョウはたまらず、実家に逃げ帰る。清治からは殺気すら漂っていたから、無理もない。珠の3人の異母弟妹も一緒だった。
清治と亡妻の娘である珠は置き去りにされた。清治は珠に冷たく言う。
「珠さま、珠さまと言われていても、いざとなったら、この有様じゃ」
リョウは先妻の子供である珠を「珠さま」と呼び、大切にしていたが、それは上辺だけのことだと清治は言ったのである。
珠は「カナリアを探してきます!」と声を上げ、網を持って家を飛び出す。「絶対に捕まえる」森の中を懸命に探した。
それは単純にカナリアを捕まえようとしていたのではない。去ってしまった継母も追っていた。二重の意味を持っていた。確かに巧みな演出である。
しかし、カナリアは見つからなかった。その後の展開は朝ドラの定石だったものの、泣かせた。
珠はリョウの実家へ行き、外から叫んだ。
「なんで出て行った!」「帰って来て」
血縁がないとはいえ、長く一緒に暮らしてきた珠にとって、リョウは母親でしかないのだ。それでも、リョウは家から出てこない。両親から止められていた。
あきらめた珠は肩を落とし、背中を丸め、家に帰り始める。力なく歩く幼子の後ろ姿を見せられると、胸が痛む。泣き顔を目にするのと同じくらい辛い。
リョウはたまらず家を飛び出し、珠を抱きしめる。「ごめんね」と詫びた。観る側も安堵した。定石をすべて排除する必要はない。
その後、珠はリョウに帰宅を促した。リョウは躊躇するが、珠は「あそこは、うちらの家じゃ」と声を強めた。もう清治に服従しないという思いも込められていた。
リョウと帰宅した珠は、恐い顔の清治に向かって、「カナリアなんて、どうでもいい。おかかのほうが大事じゃ!」と言い放つ。清治は面食らう。それでも怒鳴り返さず、「好きにせい」とつぶやく。清治の素顔は気の小さい男なのだ。
子役の村上は良かった。繊細ながら天真爛漫な人として知られた宇野千代さんを彷彿とさせた。国仲も子煩悩なリョウを好演した。
なんといっても良かったのは渡部である。清治のような複雑な内面を持つ役柄を演じると、圧倒的な存在感を誇る。渡部の演技があったからこそ、清治は単純な嫌われ者では終わらなかった。
5日放送の第6回からは、珠役が村上から石橋に交代した。時は1913(大正2)年。珠は16歳になり、山口第二高等女学校での日々を送っている。女学校編だ。
家族との関わりが生活の大半を占める子供時代から、友人との付き合いの比重が増す青春期へ。珠の文芸活動も始まる。宇野さんの生涯を語るのに欠かせない、華やかな男性関係の幕も開く。
「ブラッサム」というタイトルには「咲き誇れ、わたし」という意味が込められているそうだ。宇野さんは戦前戦後の窮屈な時代にあっても、自分らしく生きた。珠もそうなるのだろう。
今の時代は選択肢が増えた。だが、思うままに生きられる人はほんの一握り。珠が憧れの的になるかもしれない。
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