ただのパニック映画ではない韓国映画「1971、ハイジャック事件」の恐ろしさ…実際には、ハイジャック機が北朝鮮に強制着陸して「乗客が帰国できない」ケースも
空港で、荷物検査などなかった時代
物語は2年後に飛ぶ。除隊後のテインは、大韓航空にパイロットとして再就職していた。そして、束草(ソクチョ)発ソウル行きの大韓航空機(乗員乗客計60名)に副操縦士として乗り組み、問題のハイジャック事件に遭遇するのである。
「機種は、〈フォッカー F27 フレンドシップ〉という、双発機(プロペラ機)です。日本では、全日空の主力機種だったので、あの時代に全日空に乗っていた方には、なつかしい機種だと思います。主翼が窓より上にあるので、どの座席からも眺望がよいことで人気がありました」
このフレンドシップ機が、離陸直後、乗客の青年によってハイジャックされる。彼は密かに持ち込んでいた手榴弾を爆発させ、機体に穴があき、操縦室のドアも破壊された。犯人は、進路を変えて北朝鮮へ“北進”せよと、指示を出す。
しかし、どうやって何発もの手榴弾を機内に持ち込めたのだろうか?
「1969年の〈大韓航空機YS-11ハイジャック事件〉、1970年の〈日本航空よど号ハイジャック事件〉の直後で、荷物検査や保安体制などが一層厳しくなる直前の、狭間の時期でした。そもそもそれまで、飛行機に乗る前に荷物検査などなかったのです。飛行機は、電車と同じように、切符を買えば改札を通ってすぐに乗れる交通機関でした。現に〈よど号事件〉の赤軍派は、日本刀や拳銃・爆弾など(模造品でしたが)を平然と持ち込んでいます」
よってフレンドシップ機のハイジャック犯も、手榴弾の持ち込みには、さほど苦労していない。
「そのほか映画では、座席が自由席なので乗客同士で席の奪い合いになったり、機内で当たり前のようにタバコを吸ったり、さらにはニワトリを持ち込んでも見逃されたり……いまでは考えられないむかしの航空機内の光景が、うまく描かれています。乗客たちも個性豊かで、日本でも2回映画化された『新幹線大爆破』の車内光景を思い出しました」
それにしても、この事件の犯人である青年は、なぜ、命をかけてまで北朝鮮へ行こうとするのだろうか。そもそも演じている俳優(ヨ・ジング)は、たしかに何かに憑かれたような異常な視線や表情を見せる。だが、単なる狂気とはいいきれない、どこか哀れな様子も漂わせるのだ。
「この映画は、単なる航空パニック映画に終わらず、根深い当時の政治状況も描いているのです。劇中、回想の形でその背景が描かれますが、現代のわたしたち日本人には、すぐにはピンとこないかもしれません」
では、その「背景」とは、どういうものなのだろうか。
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