15歳の学力は世界トップ級なのに…日本の若者が「世界トップレベルの大学」で学ぶ機会が少ない理由

国内 社会

  • ブックマーク

圧迫され続けている大学の教育と研究

 こうしたことから、日本の大学教育のレベルを引き上げることが急務のはずだが、実態はその逆の方向へと進んでいる。

 国立大学は2004年、小泉純一郎内閣のもとで進められた構造改革の一環として、それまでの国の直営から、独立した国立大学法人へと移行した。各大学の自主性や独創性を高めて教育や研究を活性化させる、というのが建前だったが、現実にはそうなっていない。国立大学への運営費交付金は、法人化された初年度の1兆2415億円を最高に毎年のように削減され、2026年度の運営費交付金は、前年度比188億円増の1兆971億円となったものの、法人化初年度の1兆2415億円をなお約12%下回っている。交付金の削減によって多くの国立大学の財務が悪化し、ひいては若手研究者の減少にもつながっている、と指摘されている。

 実際、日本では博士課程の入学者が2003年から2024年にかけて14%ほど減り、とりわけ人文社会科学系では40%前後も減少しているという(2025年9月30日の文科省有識者会議)。原因としては、日本企業が博士号取得者を積極的に採用しないことも挙げられる。だが同時に、日本の大学が教員ポストを減少せざるをえなくなっているなど、研究者を抱える余力が失われていることの影響が大きいといわざるをえない。

「科学技術立国」は日本の、国家としての基本方針のはずだが、現状はこのように、そのための基盤が脆弱であるばかりか、年々揺らいでいる。初等中等教育までは世界でもトップレベルだ、というせっかくの強みが、高等教育においてまるで活かせていない。そのことは日本が長期にわたって経済的に低迷し、いまなお生産性が向上せず、技術革新が進まないことの原因として、無視できないものだと思われる。

バラマキで企業を甘やかすより大学への投資を

 高市早苗政権は、2040年度までにAIや半導体など17の戦略分野で、2040年度までに累計370兆円超の官民による国内投資を想定するという「成長戦略」を打ち出している。しかし、政府の支出を増加させた結果、生産性が上昇したという例など、寡聞にして知らない。

 政府主導のバラマキが行われれば、実際、企業の投資は増えるだろう。だが、身銭を切らずとも余裕があるという状況下では、往々にして収益力が低い投資が行われる。効率が悪い投資が重ねられれば、むしろ平均的な収益率は低くなる。それは日本の生産性の向上どころか、低下につながりかねない。さらには、淘汰されるべき企業が生き残るなど、経済の非効率化にもつながっていく。

 長期的に見たとき、日本の経済成長を支えるのは、企業を甘やかして収益力の低下にもつながりかねないバラマキ的投資などよりも、研究開発力、および技術力を高めるための基盤整備であり、さらには基礎研究の充実であるはずだ。初等中等教育の高い水準を活かすべく、高等教育の充実を図って、日本の底力を高める。そのために高等教育に投資する。結局、それこそが、日本の生産力向上への近道だと思うのだが。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動を行うほか、歴史的な視点を応用し、経済から文化まで現代のさまざまな社会状況にも言及。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。