「まるで振り込め詐欺のアジト」「足を引っ張ってんのはオマエや、ここで土下座せえ」 郵便局員を不正に追い込んだ壮絶ノルマと懲罰研修

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 日本郵便の郵便事業は、郵便物の取扱量の減少などを原因として、厳しい収支状況が続いている。こうした状況を受け、総務省は今年8月、郵便事業の持続可能性を検討する有識者会議を立ち上げた。その焦点となるのは配達頻度を減らしたり、差し出しから届くまでの日数を延ばしたりするなど、全国一律のサービス水準の見直しだ。

 その巨大な郵便局組織では、かつて厳しい営業ノルマを背景に、顧客を欺くような保険営業や、職員を追い詰める「懲罰研修」が横行していた。

 早稲田ジャーナリズム大賞も受賞した西日本新聞記者・宮崎拓朗氏が関係者1000人以上の「叫び」を基に窓口の向こうに広がる絶望に光を当てるノンフィクション『ブラック郵便局』から抜粋し、郵便局員を不正へと追い込んでいった巨大組織の驚くべき実態を紹介する。

(『ブラック郵便局』の内容を一部抜粋し、再構成しています)

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「まるで振り込め詐欺のアジト」

「記録と記憶に残るラストスパート!」。2019年4月1日、四国の各郵便局にスポーツ紙を模した「四国スポーツ 号外」が配布された。

 作成したのは日本郵便四国支社。全国の支社の中で唯一、しかも6年連続で保険営業目標を突破したと伝え、「この伝統を次年度以降も続けていきましょう!」との支社長コメントも掲載されている。

 目標を達成したのは年度最終日の3月31日。支社内が喜びに沸く中、ある男性局員は31日当日の契約データを見て驚いた。局員の家族とみられる人物が契約者になっている契約や、営業実績としてカウントされた後に入金もないまま失効している事例が次々に見つかったのだ。男性局員は「目標達成の実情は、自腹契約とカラ契約だったんです」と言った。

 取材に応じた渉外社員たちは、口々にノルマの厳しさを訴えた。

 渉外社員たちの1日は、毎朝の朝礼で、その日の目標をたたき込まれることから始まる。局内の壁に、社員ごとに「○日までにやります」と書いた宣言書が張り出され、達成できた社員の分だけが剥がされていくという郵便局もあった。

 ノルマが課されるのは、契約額だけではない。アポ電の数、顧客宅への訪問件数、見積書の作成枚数、そして契約件数まで、個人ごとに全ての数字が管理されている。「君は平均すると1日に○件の電話、○件訪問をして、○件しか契約が取れていない。この割合を考えれば、もっと電話と訪問を増やさないとダメだ」などと指示されるのだ。

 関西地方の渉外社員の男性は、「1日5件はアポを入れろ」と指示されていた。アポイントが取れていなければ、一日中部屋にこもり電話をかけさせられる。多い日には50件。保険勧誘という本来の目的は告げず、「相続税対策のご提案があります」「お会いしてお伝えしたいことがあります」と表向きの訪問理由を説明するのだ。

「まるで振り込め詐欺のアジトみたいだ」

 受話器を握りながら、男性は罪悪感に苦しんだ。

 アポが取れ、訪問した顧客からは「しょっちゅう郵便局から電話がかかってくる」「今日来られた郵便局員さんは、あなたで3人目ですよ」と言われることもあった。「一体、郵便局は何をしているんだろう」とむなしくなった。

 この男性は「保険営業の現場で起きていることを伝えたい」と言い、面会して話を聞かせてくれていた。取材の途中でしばらく黙り込むと、意を決したように言った。

「僕は2回、お客さんを騙して加入させたことがあります」

 このうち1度は、「不告知教唆」の不正だった。本来は持病があって保険に加入できない顧客に対し、「それぐらいの病状なら大丈夫ですよ」と話し、告知しないよう促した。顧客は病気が悪化して入院し、保険金を請求したものの、かんぽ生命は「告知義務違反」があったとして支払いを拒否した。顧客は「局員に告知しなくていいと言われた」と抗議したが、男性は社内の調査に「そんな説明はしていない」とうそをつき通したという。

 男性は心を病み、心療内科に通っていた。

「騙して申し訳なかった。契約を取らないと、局に帰れなかったんです」

 震える声で語った男性の目から涙があふれた。

つるし上げによる休職者が続出

 ノルマが達成できない渉外社員に待っているのは、懲罰研修だった。

 日本郵便近畿支社の研修に何度も参加させられた渉外社員が証言する。

 研修会場で待っているのは、支社の金融渉外本部長や、「専門役」「指導役」と呼ばれる幹部たち。呼び出された渉外社員たちは、持参した反省文を手渡すのだが、幹部らは目を通すこともなく、「『頑張ります』っていう言葉なんかいらん。いつまでにナンボすんねん。ここで宣言しろ」と恫喝してくる。

 渉外社員らの釈明に納得がいかなければ、幹部らの叱責はさらに過熱し、「足を引っ張ってんのはオマエや。ここで土下座せえ」「各局の金融渉外部に行って、頭下げて来い」と怒鳴り散らした。目標に足りない額を借金に見立て、返済を迫るような場面もあったという。

 中国地方の渉外社員は研修での「ロープレ」が苦痛だったと話す。ロールプレイングの略語らしく、出席者たちの前で、順番に顧客への営業を実演させられる。上手にできなければ会場から失笑が漏れ、緊張から途中で何も話せなくなる同僚もいた。この渉外社員は「研修とは名ばかりのパワハラ。数字が上がらない責任を個人に押しつけ、つるし上げるためだけのものだった」と悔しがった。

 厳しい締め付けによって、退職者や休職者は相次いでいた。「うちの金融渉外部では、新卒が3年以内に7割辞め、通年募集している中途採用者も陰湿な空気に嫌気が差してすぐに辞めます」(九州の渉外社員)という職場もある。

 そんな状況を、上層部は容認していた節がある。各局の営業目標は、渉外社員の人数を基に算出される。実績が低迷した社員がいない方が、目標を達成しやすくなるのだ。心を病んで休職していたある渉外社員は、幹部から電話で「今年度はずっと休んでいてくれ」と求められたと打ち明けた。

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 関連記事「「悪質すぎる保険営業が横行」「認知症女性の貯金が尽きるまで保険料を…」 内部の「絶望」を描いた『ブラック郵便局』」ではこれらの実態に加え、ノルマに追い詰められた郵便局員による生命保険の勧誘で高齢者が喰い物にされていた実態を明かしている。

デイリー新潮編集部

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