銃撃された少女の「肉声」で描かれた、ガザ地区の現実――衝撃の映画「ヒンド・ラジャブの声」でベン・ハニア監督が伝えたかった「変化」とは
「少しでも“変化”を、後押ししたい」
カウテール・ベン・ハニア監督は1977年、チュニジアの生まれ。チュニジアやパリ(ソルボンヌ大学)で映画製作を学び、シリア内戦を題材にした「皮膚を売った男」(2020、チュニジア=フランスほか合作)で話題になった監督だ。ドキュメンタリーと劇映画の両方を撮っている。
先述のように、本作はすでに世界中で高評価を得ているが、通常の映画とちがうのは、名だたる映画人が、続々とエグゼクティブ・プロデューサーとして参加していることだ。ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラ、アルフォンソ・キュアロン、ジョナサン・グレイザー、マイケル・ムーア、スパイク・リー……。
「この事件は、決して大きく報道されませんでした。つまり、あまり知られていない話なのです。しかもスター俳優は出ていませんし、言語はアラビア語なので、字幕が必要です。よって、この映画には、サポートが必要だったのです。そこで、あらゆるコネクションを使って働きかけたところ、本作を観た錚々たる人たちが、続々と名前を連ねてくれました」
最後に、ベン・ハニア監督に、日本のカルチャーについてうかがってみた。
「私は、テレビで『名探偵コナン』など、日本のアニメーションを多く観て育ちました。ただ、アラブ社会では、アラビア語に吹き替えられているので、子どものころは、日本の作品だとは思っていませんでした。それだけに、なぜアラブ人が、チョップスティック(箸)で食事をしているのだろうと、不思議に思っていたほどです(笑)」
日本映画も大好きだという。
「特に黒澤明と、小林正樹です。黒澤では、『羅生門』がベストですね。あの映画は、ストーリーテリングとはどういうものであるかを、教えてくれました。世の中の出来事には、リアルな現実と哲学的な面があり、決して一面で見ることはできない様々な定義があることを、とてもわかりやすく映像化しています」
小林正樹といえば、海外ではなんといっても「怪談」が有名だが……。
「もちろん、『怪談』も『人間の條件』も好きですが、小林では、やはり『切腹』ですね。あの映画を初めて観たときの衝撃は、いまでも忘れられません」
すでに次回作も出来上がっているらしい。
「実は、次回作の制作中に、この『ヒンド・ラジャブの声』が入ったので、一時中断していたのですが、最近、編集が終わったところです。1940年代からのチュニジアを舞台にした、ある家族の物語です」
おそらく「ヒンド・ラジャブの声」は今後も、世界中で話題になるだろう。
「ガザ地区で起きていることについては、世界の見方も、変わりつつあります。ハリウッド映画界でも、最近は、パレスチナへの連帯を示してくれる人たちが増えてきました。しかし、まだまだ大きな変化にまでは至りません。私は、この映画で、すこしでも“変化”の後押しをしたいのです。日本のみなさんにとって、パレスチナ・ガザ地区は遠い存在かもしれません。しかし、いまの地球上では、こういった悲劇は、すべてが影響し合い、関連しています。ぜひ映画館に足を運んで、ご自分の目で、“目撃者”になっていただきたいのです。それが、“変化”を起こす、第一歩だと思います」
映画「ヒンド・ラジャブの声」は、9月4日より、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座を皮切りに、全国で公開される。



