銃撃された少女の「肉声」で描かれた、ガザ地区の現実――衝撃の映画「ヒンド・ラジャブの声」でベン・ハニア監督が伝えたかった「変化」とは

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衝撃的だった、ヒンドちゃんの「声」

「ガザ地区の悲劇に関しては、連日ニュースで死者の数が報じられるだけで、そこで起きている〈個〉の出来事については、なかなか伝わってきません。それだけに、いったいどうなっているのか、隔靴掻痒でした」(ベン・ハニア監督)

 2024年2月、ハニア監督は前作のドキュメンタリー映画「Four Daughters フォー・ドーターズ」のキャンペーンでアメリカ・ロサンジェルスに滞在していた際、SNSで事件を知った。

「〈パレスチナ赤新月社〉が、SNSでヒンド・ラジャブの録音されていた“音声”を流していたのです。彼女と連絡が取れなくなって、すでに何日もたっていました。もしかしたら生存している可能性もあるので、情報を求める意味もあって、同社がヒンドの“音声”をSNSで公開したのです。幼い女の子が『助けて』と叫んでいました」

 だが、結果は……。ヒンドちゃんの遺体が発見されたのは、連絡が途絶えてから12日後だった。

「たいへん衝撃的で、つらい“音声”でした。その声が、ずっと耳から離れませんでした。自分にできることは何だろうかと考えました。わたしは映画監督です。だったら、これを映画にして、世界中に彼女の声を届けるべきだと思ったのです」

 それには、まず、ヒンドちゃんの母親の理解と許諾を得なければならない。

「そのころ、母親はまだガザ地区内にいたのですが、しばらくして、関係者の尽力で国外へ避難できました。さっそく母親に会い、私の考えを説明しました。もし彼女がNOといったら、このプロジェクトはあきらめるつもりでした。しかし幸い、とてもよく理解してくださって、“そういうことなら、あの娘の死も無駄にならないでしょう”と許諾をいただくことができました」

 次に、〈パレスチナ赤新月社〉に許諾と協力を求めた。

「彼らは、私がいままでに作ってきた映画をよく知っていて、これも、すぐにOKを得られました。“美しい映画にしてほしい”とのメッセージをもらい、ヒンド本人の音声も提供してもらいました」

 劇中で流れるヒンドちゃんの声は、録音されていた、実際の彼女の音声である。

フィクションとドキュメンタリーの境界線上を行く――

 撮影は、ベン・ハニア監督の母国であるチュニジアで〈赤新月社〉のオフィスを再現するセットを組み、おこなわれた。主要キャスト4人は、現実のスタッフに似た俳優たちがキャスティングされた。

「もちろん、俳優たちには、事前にセリフをすべて入れて(覚えて)もらいました。シーンの大半は、ヘッドセット越しの、ヒンドとの電話会話です。しかし、ヒンド本人の声は、事前に俳優には聴かせませんでした。彼らは撮影本番で、初めてヒンドの声を聴いたのです。よって、映画のなかで、俳優たちが驚いたり、叫んだり、涙を流しているのは、演技ではなく、ドキュメンタリーなのです。ほとんどのシーンが長回しで、やり直しはありません」

 まさに本作は、フィクションとドキュメンタリーの境界線上を行くような、独特な作品となった。特にクライマックスでは、ある手法で、現実の〈赤新月社〉スタッフたちの映像と、彼らを演じる俳優たちの映像が、重なるシーンがある。ここは映画ならではの表現で、スクリーン内で起きていることが現実だったことを、非常にうまく説明しているシーンだ。

「〈赤新月社〉に協力を求めたとき、音声だけでなく、そのほかのデータ――たとえば動画などもあれば、それらもすべて見せてほしいとお願いしました。そのなかに、彼らが苦しみながら対応している姿を記録したスマホ動画があったのです。最初から、ぜひこの動画は、映画のなかに生かしたいと思いました。これによって、本作は完全なドキュメンタリーではないが、かといって全編がフィクションでもないことを、伝えたかったのです」

 そして――結果はすでにわかっているので、私たちは、“最期”がどうやって訪れるのかを、劇中の俳優たちと一緒に目撃することになる。ラストでは、事件後の記録映像も出る。それはたいへんつらく、衝撃的なクライマックスだが、これが、ガザ地区で起きている現実なのだ。

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