「夫婦、家族に小さな絶望を感じている人へ」 少数精鋭の役者で魅せる不倫劇「Tシャツが乾くまで」に1話から夢中に

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 月刊誌の編集者である瀬尾咲子(蒼井優)には、喫茶店を営む優しい夫・充(みつる/松山ケンイチ)がいる。メーカー勤務の園田樹生(いつき/中島歩)には、パートの妻・あずさ(夏帆)と幼い息子がいる。仲むつまじく穏やかに、順風満帆に見える夫婦二組。ご近所でも接点や交流はない……はずが、長野県で起きたバスの転落事故を機に、夫婦のうそと秘密が明らかになっていく。今期、最も心をザラつかせる「Tシャツが乾くまで」の話だ。コインランドリーが重要な舞台となるので、このタイトル。

 言葉に出してけんかするほどでもない、夫婦間の微妙な軋みを端的に言語化し、登場人物全員にうしろめたさや痛みを抱えさせる脚本では日本屈指の生方美久。いろいろとわやなお台場から離れて、赤坂で連ドラ初挑戦。地上波ドラマ界では手垢のつきまくった不倫劇を、少数精鋭の役者陣で鮮やかに魅せる。もうさ、初回からすっかりとりこなわけよ。

 バスに乗っていたのは充とあずさ。充は行方不明、あずさは死亡。咲子は悲しむに悲しめない。なぜ充だけがこつぜんと姿を消したのか。生きているという希望とともに、ある疑惑に苛まれる。青天のへきれきからの自問自答、そして別の意味での喪失感へ。生方脚本では、そんじょそこらの安易な「悲劇のヒロイン」には絶対にしない。この難役を蒼井が好演。

 一方の樹生も、妻を亡くした悲しみだけではない。実は生前から充とあずさが近所のコインランドリーで会っていたことを突き止めていた。不倫を疑っていた矢先に不慮の事故。疑惑の解明とシングルファザーの日常に追われ、悲しみや怒りは後回し。あえて後回しとも。徐々に訪れてくる喪失感を、中島がどこかコミカルにも体現。湿度が絶妙。

 大きな溝や修復不可能な亀裂が見当たらないまま、夫婦が突然解散する事態はとにかくやりきれない。しかも、失踪した夫と亡き妻の知られざる日常や真実が、周辺人物たちからしれっと語られていく。怒りや憎しみの矛先が明確なら、悲しみに暮れるだけなら、どんなに気が楽だろうかと思う。

 あずさが勤めていた古書店店主(リリー・フランキー)は余計なことを言う。樹生の母(長野里美)も亡くなったあずさをおとしめる暴言を吐く。亡くなってから初めて、あずさの感情に寄り添うことができた樹生。自責の念も、時すでに遅し。

 咲子は職場の先輩(臼田あさ美)に失踪夫の不倫疑惑を吐露するも、逆に彼女が不倫していることを知らされる。相手は年下の外資系リーマン(庄司浩平)、不倫は妻公認、犠牲になる子もいない、誰にも迷惑をかけていないと言う。「倫理に反しない」充を信じ切っていた咲子の心に揺らぎが生じる。倫理に反しなくてもうそや秘密があったのだと。

 さらに、充が経営する喫茶店の従業員・矢野直人(高橋文哉)は、充と通じていて、失踪を知っていたのだ。

 今後、経緯や背景が明らかになるだろうけれど、まったく穏やかではない。夫婦や家族という逃げ場のない関係で、息苦しさや小さな絶望を日々感じている人に見てほしい問題作である。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年8月13・20日号掲載

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