才木だけじゃない…阪神が何度も味わった「あと1球コール」からの大暗転
あの1球さえなければ
「あと1球」で、完封と自ら決勝打を放っての勝利が幻と消えたのが伊藤将司だ。
2022年、開幕から9連敗と大きく出遅れた阪神は、4月5日のDeNA戦で待望のシーズン初勝利を挙げた。翌6日のDeNA戦では、伊藤が連勝への期待を担って先発し、5回まで無失点の好投を見せる。
伊藤は打撃でも主役になった。5回2死一、二塁、石田健大からプロ初タイムリーとなる左前安打を放ち、自らのバットで貴重な1点をもたらした。
その後もDeNA打線に的を絞らせず、8回まで3安打無失点。試合は1対0のまま最終回を迎えた。
9回、伊藤は先頭の桑原将志を四球で歩かせ、犠打で二進を許したものの、佐野恵太を三ゴロに打ち取り、完封勝利まで「あと1人」となった。
このままゼロで抑えれば、阪神では1973年に江夏豊が自らのサヨナラ本塁打でノーヒットノーランを達成して以来、49年ぶりとなる、自ら決勝打を放っての完封勝利が実現するところだった。
2死二塁で、伊藤は牧秀悟を2ストライクと追い込む。スタンドから「あと1球」コールが沸き起こった。
だが、フルカウントから投じたチェンジアップが高めに浮いたところを、牧に捉えられてしまう。中堅・近本光司が必死にダイビングキャッチを試みたものの、打球は差し出したグラブの先で弾み、同点タイムリーとなった。
その後、阪神は延長12回にリリーフ陣が5失点。連勝目前から一転し、セ・リーグ史上最速となるシーズン10敗目を喫した。まさに「あの1球さえなければ」である。
伊藤自身も「1点差の緊迫した試合で、全体的に粘る投球はできたと思う。ただ、9回、何とかあのピンチを抑えて勝ち切りたかった……」と、1球の怖さをかみしめていた。
痛恨の1球を引きずらず、次の登板へ
「あと1球」から、チームの失速につながる痛い敗戦を喫したのが、2023年6月17日のソフトバンク戦だ。
古巣を相手に12球団勝利がかかった先発・大竹耕太郎は、6回1失点と好投し、勝利投手の権利を得てマウンドを降りた。
阪神は4対3と1点をリードして9回を迎え、3連投となる守護神・岩崎優を投入した。
だが、岩崎は代打・嶺井博希に右越え二塁打を許し、甲斐拓也にも四球を与えて、1死一、二塁のピンチを招く。それでも、7回に追撃の代打2ランを放っていた野村勇を見逃し三振に仕留め、何とか2死までこぎつけた。
続く1番・中村晃もカウント2-2。勝利まで「あと1球」となった。
ところが、中村に2球続けてファウルで粘られたあと、7球目のスライダーが真ん中へ入ったところを左中間に運ばれ、土壇場で逆転されてしまう。
代わった石井大智も今宮健太に中前タイムリーを浴び、4対6でゲームセット。大竹の12球団勝利は幻と消え、4年ぶりとなる交流戦の負け越しも決まった。
阪神は交流戦を負け越しで終え、公式戦再開後の6月25日には首位から陥落。この時期の苦戦を象徴する痛い1敗となった。
「あと1球」コールは、マウンド上の投手を鼓舞するためのものだ。一方で、相手打者を「なにくそ」と奮起させる場合もあり、「逆効果ではないか」という声があるのも事実である。
ただ、才木が打たれた試合後、藤川球児監督は「野球をやっていると、必ずそういうことがあるけれど、また切り替えて次の登板に。引きずる必要は絶対にないので」と語った。
長いシーズンを戦ううえでは、痛恨の1球を引きずらず、次の登板へ気持ちを切り替えることも重要になる。
才木自身も、藤川監督のように、いつか「あの『あと1球』コールが懐かしい」と振り返る日が来るのかもしれない。









