日本の海水浴場では客が9割減なのに…ヨーロッパでは老若男女がビーチに押し寄せる意外な事情

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波の音を聴いて落ち着ける場所に

 しかし、このアドリア海の海水浴場にも変化はみられる。インフレによる生活費の高騰や、長期バカンスを分割取得する傾向を受け、以前にくらべて滞在日数が短くなっているというのだ。これまでは長期滞在の客が多かったのだが、人出が週末に集中し、平日の客数が減少傾向にあるという。

 とはいえ、土日はどこの海水浴場にも人があふれ、ビーチに埋め尽くすパラソルは、それなりに暑い日であれば、すぐに「満席」になってしまう。ちなみにパラソルとデッキチェア2脚で、1日あたり25~30ユーロ(4,000~5,000円)程度が相場である。

 ここから見えてくるのは、日本では「ビーチは若者や子供連れがすごす場所だ」というイメージをつくりすぎてしまった、ということである。若者ほど海に行くことを敬遠するようになった、という調査結果もあるが、日本ではもともと海水浴客は若者中心だったので、若者に敬遠されてしまえば、「だれも海に行かない」ということになる。

 日本の海水浴場の問題点を整理すれば、①若者向けのイメージをつくりすぎてしまったことが挙げられる。それは流行とともに消費される場にしてしまった、ということでもある。かつての若者も、年配者の居場所がないことを知っているので、一定の年齢になったら寄りつかない。②は①と関連するが、パラソルとデッキチェアなど、年配者が快適にすごせる設備がない。そういう設備があって、年齢を問わずに利用できる雰囲気があれば、高齢者が温泉にでも入る感覚で、海水浴場を訪れることができると思うのだが。

 イタリアのビーチでも危機は語られている。温暖化の影響で2050年までに海岸の20%、2100年までに45%が失われると予測されている。その点では、海水浴は消滅の危機に向かっているが、現状、世代を問わずに夏のレジャーとして定着している。目をつむって浪の音を聴いているだけでも心は落ち着くもの。日本の海水浴場もそういう場になれば、復活の目もあるのではないだろうか。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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