アニメ声優たちを襲う“生成AIという驚異”…詐欺にも悪用される“声の権利侵害”の証明が難しい理由
アイコラの問題は25年も前
「ツダケンの声がする」「本物の声かと思った」
これはTiTok上に投稿された、声優で俳優の津田健次郎さんが声を生成AIで無断のまま模倣された動画のコメント欄に寄せられた声だ。フェイク動画の投稿は2024年夏に始まり、津田さん側がプラットフォーム運営会社を昨年11月に提訴したことが、問題が大きく動くきっかけとなった。
昨年からエンタメ業界や声優らからSOSの声が広がり、法務省が今年4月に検討会を立ち上げると、津田さん側が昨年、提訴に踏み切っていた事実が表面化。「検討を急ぐべき」との声が一気に高まったため、早期の指針づくりが後押しされたかたちだ。
ある警察関係者はこう話す。
「アイコラ(アイドルコラージュ)のアダルト画像が刑事事件になったのは、もう25年も前のことです。2001年2月、女性アイドルの顔写真をデジタル合成した裸の画像について、芸能事務所とタレント本人から前年に刑事告訴を受け、画像を雑誌に掲載した出版社長らを名誉棄損の容疑で警視庁捜査2課が逮捕した事件です。やっぱり静止画や動画は、分かりやすいんです。今、声に注目が集まっているのは、生成AIという驚異的な再現技術ができたからでしょう。モノマネ芸人さんの声まねとは、レベルが違い過ぎます」
2024年、SNS(交流サイト)でジャーナリストの池上彰さんや実業家の堀江貴文さん、経済アナリストの森永卓郎さん(昨年1月死去)になりすまして現金をだまし取っていたとして、福島県警が詐欺の疑いで東京都墨田区の中国籍で会社役員の男を逮捕した。この投資詐欺事件では、AIのフェイク動画に名前や肖像に加えて声が悪用されていた。
詐欺事件の最重要ツールにも
池上さんはいくつかのアニメ作品で自身を模したキャラクター役としてアフレコ(声優)にも挑戦。「サザエさん」では2019年に特別番組内のアニメに本人役として出演し、「(キャラクターが)格好がよすぎて恥ずかしかった」などとコメントしていた。
前出の警察関係者は「実は視覚に訴えるフェイク画像は昔からあるだけに、疑いももたれやすい。一方で聴覚に訴える詐欺にはまだ、一般の人たちは慣れていないんです。特殊詐欺やSNS型の詐欺は巧妙化する一方ですが、池上さんのような信頼ある人の声は詐欺の最重要ツールとなってしまっているのです」と指摘する。
法務省の検討会は7月、ピンク・レディー事件の判決のロジック(論理)をベースとして視覚、すなわち「見た目」に適用されていたルールを聴覚=「音声」へと拡張させる形で指針を作ると決定した。法務省ではスピード感を重視し、法制審議会への諮問や法改正、新法の制定は不要であって、即効性のある現行法の解釈の指針で十分に対応は可能と判断。ものまねや声まねについては原則として権利の侵害にあたらないとしており、本人の声をもとにAIを使って無断で生成する場合とは明確に区別した。
その上で、AIによるフェイク音声の作成だけでなく、サービスの提供も違法になるとしており、8月にも正式に指針を公表する方針だ。警視庁元幹部は早くも、こう推測する。
「パブリシティ権は、現時点では民事上の問題ですが、フェイク動画が詐欺に多用されている事実を踏まえれば、生成AIで偽造された画像や声が『なぜ刑事罰の対象にならないのか』という不満の声が急増していくことは、間違いないでしょう。民事上の責任はもちろんのこと、刑事上の責任、つまり刑事事件にすべきだという流れになるはずです。そうなればAIで声を偽造された声優の権利が、アイコラで権利を侵害された女性アイドルや女優のように守られることとなるはずです」
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