「防衛装備輸出」で日本は“死の商人”になるのか……中谷元・前防衛相が語る「防衛基盤強化」のもたらす外交的意義とは

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 前防衛大臣の中谷元氏は、陸上自衛官としてレンジャー教官などを経たのちに政界へと進出した異色な経歴の持ち主だ。その経験を活かし、小泉内閣で防衛庁長官、安倍内閣や石破内閣で防衛大臣を歴任し、長年にわたって国防の世界で当事者として防衛政策を担ってきた。かたや岸田内閣では人権担当補佐官を務め、「人権外交」を推し進めてきた外交通でもある。国際社会が大きくパワーに傾く中で、日本はどのようにして「外交と防衛」の両輪を回していけばよいのか。中谷氏に聞く。

〈2026年7月16日に「新潮QUE」で配信した記事をもとに再構成しました〉

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防衛装備輸出の意義

 国内ではいまだに「死の商人になるのか」といった防衛装備品輸出反対の声や、大学などでの軍事技術の研究に「戦前回帰につながる」などと反対する声もあるのですが、もはやレッテルを貼って反対していればいいという時代ではなくなっています。

 日本の防衛装備品輸出緩和を歓迎する声が海外、特に東南アジアから起きているのも、こうした様々な状況の変化を受けてのことでしょう。

 私は防衛大臣在任中の2025年5月に、インド太平洋地域の各国、具体的にはオーストラリア、フィリピンやマレーシアといった東南アジアに加え、島嶼国との連携を強化すべく、「OCEAN(One Cooperative Effort Among Nations)」構想を提唱しました。これは価値や利益を共有する国々がインド太平洋地域を俯瞰的にとらえ、各国の自主的な安全保障・防衛の取り組みを連携させることを目指すものです。

 その中で、オーストラリアには海上自衛隊の護衛艦「もがみ」を、フィリピンには海洋管制警戒レーダーを供与しました。これはお互いに防衛力や監視能力を高めることで守り合うと同時に、外交関係も深めていこうという狙いがあります。

 また、それ以外にも、イギリス、イタリアとは次期戦闘機の開発を共同で行うプログラムであるGCAPを進めています。これまで日本はアメリカをはじめ他国から装備品を買って使っている状況にありましたが、今後は自国での生産・開発能力を高めなければなりません。いわゆる防衛生産基盤の向上で、装備品輸出はこうした基盤強化とも連動しています。

「アメリカから高い武器を買わされる」といったこれまでの状況では、高額な代金を支払うというだけでなく、メンテナンスや弾薬の管理、部品の調達などのアフターケア全般を外国に頼らなければなりませんでした。

 しかも弾薬や部品は注文してから届くまでに時間がかかったり、後から価格があがったりと、自国でコントロールできない点に課題がありました。

 防衛生産基盤の強化と装備品輸出は、こうした状況に一石を投じるものです。

 現在でも日本の中古の装備品を譲ってほしいという声は絶えずあります。2022年末に制定した「戦略三文書」には、外務省のOSA(Official Security Assistance、政府安全保障能力強化支援)という制度が盛り込まれました。これはODAに代わるもので、日本が同志国に防衛装備品やインフラ整備を無償で供与する仕組みです。その名の通り、安全保障上の能力向上を支援するものですが、これは外務省の予算で、外交の枠組みで行われています。今後は防衛省主導の取り組みも行っていく必要があるでしょう。

戦略三文書改定の目玉

 こうした軍事や外交に影響を及ぼす「新しい戦い方」についてや、急速に変化する安全保障環境への対応については、2026年中にも改定される「新・戦略三文書」にも盛り込まれることになります。

 私も顧問を務める自民党の安全保障調査会は、この2026年6月9日に三文書改訂のための提言をまとめました。そこでは「積極的な外交の展開」とともに、「我が国自身の防衛努力」として、次の七つを挙げています。

(1)ネットワーク連接やAIを活用した迅速な意思決定の確保
(2)無人アセットの大量運用と用途の拡大
(3)スタンド・オフ防衛能力・反撃能力の更なる強化
(4)(ドローンや極超音速ミサイルなど)複合的な攻撃に対する防空能力の構築
(5)宇宙・サイバー・電磁波領域を含む全領域での統合作戦能力
(6)太平洋・シーレーン防衛の強化
(7)継戦能力の維持・確保

 力を入れなければならない分野や課題は多く、防衛力整備には一刻の猶予もありません。特に(1)~(4)は冒頭申し上げたような、軍事テクノロジーの向上による変化への対応であり、まさに「新しい戦い方」を学び対応しなければならない、日本の防衛を考える上では不可避な項目と言えるでしょう。

 2022年末の戦略三文書制定後にも防衛大臣を務めた時期がありますが、その間も防衛力の抜本的強化に努めてきました。当時の一番の課題は人的資源の強化であり、自衛隊員の処遇改善には特に力を入れました。良い人材を集めるためには給与の改善だけでなく、50代後半と定年の早い隊員のその後の職業の確保なども課題です。取り組みの成果もあって、2025年度の隊員の採用者数が前年度を15%上回ったのは嬉しい結果でした。

 今回の三文書改訂も項目を挙げるだけではなく、実現につなげなければなりません。

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「新潮QUE」にて公開中の関連記事【安全保障は何のためにあるのか――中谷元・前防衛相が語る「国防」と「リベラル」の両立】では、各国軍事力の増強による外交姿勢への影響や、水と油に見える「リベラル」と「国防」が交わる点について詳述している。

中谷元(なかたに・げん)
高知県生まれ。土佐高等学校を経て、防衛大学校に進学。1980年、陸上自衛隊に入隊。小銃小隊長、レンジャー教官を歴任後、90年に初当選。国土政務次官、自治総括政務次官などを歴任し、第1次小泉内閣で防衛庁長官(2001年~02年)。第3次安倍内閣や第1次・第2次石破内閣で防衛大臣(14年~16年、24年~25年)を務めた。衆議院議員13期。

デイリー新潮編集部

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