「女性最年長」で直木賞受賞の朝倉かすみさん(65) 女性の本音と葛藤をすくい上げる「名作5選」とは
吉川英治文学新人賞『田村はまだか』
次々と出てくる新刊を読んでいると、ついこの間、読んだ本のことさえ忘れてしまいそうになります。
『田村はまだか』(光文社)は2008年の2月に出た本。6年におよんだ北海道の大学への単身赴任が終りを迎え、ちょうど東京の大学に移る直前でした。ずいぶん懐かしい。でも、この小説のことはよく覚えています。とてもよかったからです。
読了後、家族にも薦めたので、全員が回し読みしたほどです。実は、朝倉さんの小説の中で今でも一番好きなのは、この『田村はまだか』です。
深夜、路地の奥にある小さなスナックに5人の男女が集まっている。小学校の同級生で、皆40歳。クラス会の3次会だった。そして彼らは田村を待っている。店に向かっているはずだが、現れない。ふと誰かが口にする。「田村はまだか」と。
田村は小学校時代から不思議な男だった。父親はいない。男出入りの激しい母親と2人暮らし。年中ジャージを着て、頭は虎刈り。だが、勉強はできたし、走るのも速い。とはいえ田村が皆から一目置かれていたのは、1人だけどこか大人の風格があったから。「孤高の小6」だった。
実に巧妙な小説です。そこにはいない田村のことを各人が想い、それと同時に「忘れられない人」「自分に影響を与えた人」のことを振り返る。それは会社の先輩だったり、年下の恋人だったり。変わらないのは「その人がいなければ今の自分はない」と思えるような人物であること。
深夜のスナック、昨日と今日との境目で、彼らの過去と現在とが交錯していく。それにしても、田村は一体どうしたのか……。
朝倉さんの作品の特徴である小気味いい短文の連なりと、深い情感をさりげない言葉に託す表現に、益々磨きがかかっていきます。
女たちの化学反応『感応連鎖』
『田村はまだか』で第30回「吉川英治文学新人賞」を受賞した後の2010年に出た長編小説が『感応連鎖』(講談社)でした。例によって、男からは窺い知れない女たちの内なる葛藤のドラマが描かれます。
登場するのは4人の女性――。節子は子ども時代からの肥満体。顔も大きい。周囲に自分を「異形」と認識させることで、いじめから逃れてきた。絵理香は他人の気持ちを読んで操るのが得意。美少女の由季子はその外見ゆえに自意識過剰気味だった。そして4人目が、彼女たちの担任教師・秋澤の妻である。
ごく普通の男であるはずの秋澤を触媒に4人の女たちの心が化学反応を起こす。1人の行動が玉突きのように他者へと影響を与えていくのだ。まさに感応連鎖。
自らの人生における主人公は自分だ。そんなヒロイン同士は、互いの眼にどう映っているのか。どう思われているのか。何気ない日常が女たちの戦場と化す。
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