星稜の「9回9得点」を上回る衝撃も 地方大会で本当にあった“ありえない大逆転劇”

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コールドまであるんじゃないかと

 コールド負け寸前の9点差をひっくり返し、大逆転勝利をおさめた記憶も新しい。昨夏の聖望学園である。

 埼玉大会5回戦、大宮北戦。聖望学園は先発の背番号10・大渕祐輝が初回からつかまった。

 先頭の延原孝介にいきなり左中間二塁打を許すと、長短打などで3点を失う。なおも2死一塁で、7番・柴田大悟に2ランを浴び、5点を先行された。

 その裏、聖望学園は3番・大羽達也の適時打で1点を返したが、2回にも2番手投手が2失点。相手悪送球で2点を返した直後の4回にも、3、4番手の2投手が計5点を失い、3対12と大きく引き離された。

 あわやコールド負けの危機である。ここから聖望学園の自慢の打線が爆発する。

 4回裏に6安打を集中して5点を返すと、7回に3点を挙げ、ついに1点差まで追い上げた。4番手・鶴渕翔大も5回以降の3イニングを無安打無失点に抑え、チームに良い流れを呼び込んだ。

 11対12の8回1死二、三塁。1番・近藤翼の中前適時打で、ついに逆転に成功する。8回から登板したエース・中村紀翔は2イニングをパーフェクトに抑え、聖望学園が13対12で逃げ切った。

 九死に一生を得て勝利をつかんだ浮中久生監督は、「とにかく大宮北打線は凄かった。本当に追い込まれてコールドまであるんじゃないかと思っていた。ホッとしています」と振り返った。

 エースに無理をさせず、強力打線で奇跡的な大逆転劇を演じた聖望学園は、埼玉県勢で唯一の夏の甲子園出場経験校として8強入りを果たした。しかし、準々決勝では叡明に1対8で7回コールド負け。2試合続けて奇跡を起こすことはできなかった。

高校野球のむき出しの魅力が詰まっている

 ほかにも、信じがたい逆転劇はある。

 1998年秋田大会決勝では、5回終了時点で秋田商に6対16とリードされた金足農が、12対16の9回に5点を挙げて大逆転。17対16で3年ぶりの甲子園出場を決めた。

 2017年静岡大会2回戦では、3回終了時点で静岡大成に2対14とリードされた磐田東が、12点差を跳ね返して16対15で勝利している。

 大差がついた時点で、普通なら試合の流れは決まったように見える。地方大会では、1つの四球、1つの失策、1本の長打から空気が一変する。

 甲子園への距離、あるいは夏が終わる恐怖が、選手の体を動かし、ベンチを動かし、時には相手の心まで揺らす。

 地方大会の大逆転劇は、単なる珍事ではない。追い込まれた球児たちが、最後の最後で夏を手放すまいとした証しである。スコアだけを見れば荒唐無稽でも、そこには高校野球の一番むき出しの魅力が詰まっている。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘! 激突! 東都大学野球』(ビジネス社)

デイリー新潮編集部

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