「トトロ」現場はにぎやか、「火垂るの墓」はシーン 両方を担当した編集マンが明かす 「宮﨑監督は天才型、高畑監督はいわゆる理詰め」

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同時上映された「トトロ」と「火垂る」

 7月15日、高畑勲監督の代表作のひとつ、映画「火垂るの墓」のNetflix配信が始まった。親を失った14歳の清太と4歳の節子が、戦火を生き抜こうとした物語だ。

 1988年に劇場公開されたこの名作のトリビアのひとつが、宮﨑駿監督の「となりのトトロ」との同時上映だったということだろう。つまり、ほぼ同時期に制作されていたのだ。

 編集マンとして「火垂るの墓」を手がけた瀬山武司さん(81)は、同時に「トトロ」も担当したことで知られる。

 瀬山さんは「天空の城ラピュタ」から宮﨑駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」まで、数多くのジブリ作品に参加してきた大ベテランだ。高畑・宮﨑両監督との出会いは、1974年のテレビシリーズ「アルプスの少女ハイジ」までさかのぼるという。

「トトロ」と「火垂る」同時制作の状況とは、どんなものだったのか。瀬山さんが知る両監督の違い、共通点は。映画「火垂るの墓」について丁寧に取材を重ねた書籍『高畑勲と「火垂るの墓」 「幻の脚本」と「7冊の構想ノート」を読み解く』(寺越陽子著)から紹介する。

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 同時に歴史に残る2本の映画の制作に参加していた当時のことを、瀬山さんは懐かしそうに語ってくれた。

「すぐ近くにある二つのスタジオを行き来するんだけどね。雰囲気がまあ全然違ったよね。『トトロ』のほうは本当ににぎやかで、瀬山さんが来たんならピザでもとろうか、といった楽しい感じでね。片や、『火垂る』のほうは、シーン。鉛筆が転がる音だけがカランと鳴り響いてたよね」

 編集作業の進め方も、監督によって大きく異なったという。

「高畑さんは秀才型で、いわゆる理詰め。自分が決めた演出が基本的にあって、その通りにやればOKだけど、それだけではできないときに編集で切り抜けていく。それが高畑さんのやり方ね。一方で宮﨑さんは天才型っていうのかな。感覚で物を考えて編集マンにある程度任せてくれる。

 だから高畑さんには、こういう理屈でこうこうこう切ったんだ、と説明をするけど、宮﨑さんの場合は、こんな感じで切ったんだ、と言えば見てわかってくれるの。どちらも間違いじゃない。だけど、二ついっぺんに仕事したときにそれを切り替えるのが、結構大変だったけどね」

机の周りに山になっていた薬

 参加するとき、高畑さんからどんなことを言われたか覚えているか。わたしのこんな質問に瀬山さんは即答した。

「原作を読んでほしいという、それだけですよ。

 こういう映画なんだ、こんなテーマですというのは高畑さんは一切言わない。自分で考えろっていうことだよね。高畑さんだけじゃなくて宮﨑さんも一切テーマは言わないね。だから一体どんなテーマなのか、自分で考えて。それは間違ってないと今も思ってるから」

 映画「火垂るの墓」のテーマは何だと思うか。これにも瀬山さんは迷いなく答えた。

「命の大切さ、その大切な命をどうやって守るのかという、これがテーマだとぼくは思っているんだよね。この映画の主人公の、14歳の人間の分別ですよね。どんな状況下に置かれても、命をなんとか守るというね。ずっと大事なんですけど、これは今現在のほうがもっと大事になってきているかもしれない」

 瀬山さんは敗戦の前年、東京にいた両親が疎開していた埼玉県で生まれた。戦争の記憶はないが、スタッフの中では最も戦争に近かった世代だ。それでもあの現場では、高畑さんから戦争に関する話は一切なかったという。

「だから、戦争じゃないんですよ。この映画の舞台が戦時中であっても決して反戦がテーマではないんです。どうやって生き、どうやって守るか。これがテーマの映画だと思ってるんだよね」

 そして映画にかける高畑さんの思い入れは、鬼気迫るものがあったという。

「一番困ったのはいわゆる仕事の遅れで、絵ができてない。だから編集の段階で、ほとんどまともに動いてないんだよね。だから編集ももう手探りですよ。多分これだろうこれだろうってやるしかない。それで後でちゃんと素材がそろった時に確認して、間違ってなかったんだなと思ってね。でもそのくらい、仕事の遅れは厳しかった。

 高畑さんももっと厳しかったわけでしょ。苦しかったわけで。やっぱり監督として全責任を負わなきゃいけないからね。それはもう、苦しんでいましたよ。

 わたしが行くと、机の周りに薬がいっぱいあって。体調を崩して薬が山になってたんです。高畑さんに『これ全部飲むの?』って聞いたら『飲む』って。そのくらい苦しんでました。

 命を守る映画を、自分の命を削って命がけでつくっていくのかっていうぐらい、すさまじいものがあったんですよね」

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 高畑監督がこうやって完成させた映画は、公開から38年経ったいま配信サービスを通して世界各国で視聴されている。

関連記事〈節子の骨の音は「フライドチキンの骨」で再現されていた――映画「火垂るの墓」、高畑勲監督のリアルへのこだわりを制作スタッフが明かす〉では、高畑監督がいかにリアルを追求したか、制作スタッフの秘話を紹介する。

※本記事は、『高畑勲と「火垂るの墓」 「幻の脚本」と「7冊の構想ノート」を読み解く』(寺越陽子著)の一部を再編集して作成したものです。

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