大自然をほぼ徹夜で300キロ走る「超過酷レース」の全容 「知られざる香港」を捉えたドキュメンタリー映画はなぜ“現地で大絶賛”されたのか
香港社会の縮図
現在31歳のリー監督は英国人だが、これら4コースの位置関係や距離感、自然環境などをすぐに理解できたという。その理由は生まれ育ちが香港というバックグラウンドだ。
「香港に住む中国系の人たち、香港人たちと比べると、性格やパーソナリティー的には僕はやっぱり西洋人だと思います。けど、香港出身であるという誇りや、香港が故郷であると思う気持ちは地元の人たちと同じです」
香港は英国領時代から外国人の出入りが非常に多い。リー監督のように「香港は故郷」の層といつか帰国する層に分かれるが、どちらの層も多国籍だ。そして香港は、各自のスタイルで生活する彼らを受け入れている。本作が香港で公開された際、レースの出場選手たちはそうした香港社会の縮図に見えるという声もあった。
「100パーセント同意します。それがこのレースの面白いところだと思うんです。背景や仕事、ジェンダー、家族、年齢など本当に様々なバックグラウンドの人たちがいる。その人たちがこのイベントに挑戦する状況は、人生と同じだなと。僕たちもそれをとても意識して撮影していた。できるだけいろいろな人たちを選んで映すことで、鑑賞者は『この人はわたしのようだ』と共感できますから」
顔ぶれと彼らの挑戦こそが香港
撮影されたレースは2021年のものだが、リー監督は先にこのレースの短編ドキュメンタリー「ブレイキング60」を制作していた。2017年のことだ。
「最初のレースを知った時は60時間のタイムを切った人がいなかったので、果たして可能なのかという興味から『ブレイキング60』を撮影したんです。その時に初めて60時間を切りました。その4年後に『フォー・トレイルズ』を撮影しましたが、焦点は60時間や誰がトップかということではなく、彼らの“ストーリー”を見せることでした」
2017年のレース以降、60時間以内にクリアした選手は「完走者」、72時間以内は「生還者」と呼ばれている。コロナ流行中だった2021年大会には、過去の「完走者」と「生還者」である18選手が出場した。
リー監督はそのうち主に9人の姿を追った。香港トレイルランニング界のレジェンドあるストーン(2017年・完走)や、最年少で4度目の挑戦となるサラ(2020年・生還)、韓国生まれアルゼンチン育ちのチャン(2020年・完走)、大会前に大けがを負ったポン(同)、ギリギリまで出場を悩んでいたジャッキー(同)といった顔ぶれである。
「50時間切りの綿密な計画を立てるサロモン(2018年・完走)や、女性唯一の完走者であるニッキ(2019年・完走)といったいろんな人たちがいます。観客が誰か1人にでも思い入れを感じる、共感できるようにと考えると同時に、この顔ぶれと彼らの挑戦こそが香港であり、香港らしいと見せたかったんです」
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