「住宅ローンが上がって大変だ」という報道の落とし穴 金利が上がらなければ物価爆上がりで日本経済も崩壊する

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利上げしなければ招かれた恐ろしい事態

 もっとも、今回の利上げ後も、為替相場に影響は見られていない。むしろ円安がさらに進んでいる。だが、そこで「利上げに意味がなかった」と考えると間違ってしまう。そうではなく、「利上げをしなければもっと恐ろしい事態を招いていた」と考えたほうがいい。

 いまの日本は、とりわけ高市早苗政権になってから、市場で投資家が円を買う理由が著しく弱まっている。昨年10月4日の自民党総裁選で高市氏が選出されて以降、円はドルに対してもユーロに対しても13~14円も下落し、反転しない。その最大の理由は、高市政権が金融緩和の維持と積極財政を掲げているからだ。つまり、投資家の心理としては、この政権は金利を上げる気がないばかりか、お金をどんどん使って日本の財政状況を悪化させ、円を保有するリスクを高めるだろうから、とりあえず円は売っておいたほうがいい、という判断になってしまう。

 しかし、いくら高市政権が金融緩和志向でも、中東情勢もあって物価がさらに爆上がりする懸念があるなか、今回ばかりは日銀は金利を上げると予測されていた。要は、今回の利上げは完全に想定の範囲内だったので、円高にはつながらなかった。ただし、利上げをしなかったら円はさらに下って、紙くずへの道をまっしぐらだった危険性がある。

「ビハインド・ザ・カーブ」という言葉がある。中央銀行などの政策対応が物価上昇などに後れをとり、市場から「対応が後手に回っている」と受け止められることを指す。いったんそう見られてしまうと、円ひいては日本経済が信頼を失い、さらに大幅な円安圧力になってしまう。今回の利上げで辛うじてそうならずに済んだが瀬戸際だった、と見るエコノミストは多い。

 日本では30年以上も金利がほぼない世界が続いたので、感覚がマヒしているが、金利がある世界が標準なのを忘れてはならない。日銀の政策金利が1.0%に引き上げられたといっても、アメリカ(FRB)の3.50~3.75%、ユーロ圏(ECB)の2.4%にくらべれば、まだないに等しい。つまり日米、日欧の金利差は依然として大きいので、円安はなかなか解消しないのである。だからといって、金利を上げないままでいれば、日本が「ビハインド・ザ・カーブ」に陥って金利差がさらに拡大すれば、円安はとめどなく進んで、日本の物価は上がり続ける。

 この前提条件を無視して、利上げのきわめて短期的なメリットとデメリットを示し、若い人には負担が増える、などと報じれば、多くの人がいまの日本の危機に気づかなくなってしまう。

金利を上げる以外の選択肢はない

 ところで、おそらく高市総理には、原因にさかのぼって、つまり円安を解消することで物価高を抑えようという気持ちがない。アベノミクスを継承する「サナエノミクス」なる経済政策は、緩和的な金融政策を堅持して財政資金を容易に調達できるようにし、また、欧米との金利差も拡大したままで放置し、円安を維持しようとしている。円安を指向するのは、大企業の利益を増大させ、ひいては株価を上げるためである。

 いまは大企業の生産拠点は海外に移っているので、円安になっても昔のように利益は上がらないが、海外での売り上げ比率が高い企業やグローバルに展開している企業は、現地通貨での収益が円に換算してさらに増えることになる。そんなこともあって、株価は上がっているから、総理は「ホクホク」なのではないか。

 しかし、緩和的な金融政策すなわち低金利、そして円安は、物価高となって私たちの生活を直撃している。株価が上がってよろこんでいる人は、国民全体から見れば、株式投資をしているごく少数者にすぎない。いまの株高は物価高という犠牲の上に花開いている、ということを忘れないほうがいい。

 現在、食料品の消費税を2年に限定して0%にするか、1%にするか議論されている。それが物価高対策だそうだが、実行するには5兆円といわれる財源が要る。そもそも5兆円も税収減になれば、日本の財政の健全性が疑われ、円が売られて物価が上がる。行おうとしていることはたんなるマッチポンプにすぎない。本当に物価高を抑えたいのであれば、金利を上げるという選択肢は避けて通れないはずである。

 じつは、今回も高市政権は、本音をいえば金利を上げてほしくなかったが、アメリカのベッセント財務長官から圧力をかけられ、やむなく日銀の決定を黙認したともいわれる。

 とにかく強調したいのは、物価の高騰を抑制したいと願うなら、金利の引き上げを肯定したほうがいい、ということだ。今回は外圧もあったが、これまで高市政権は日銀の政策決定に圧力をかけ、金利を引き上げないように導いた。しかし、今後もそんなことを行えば「ビハインド・ザ・カーブ」に陥るだろう。そのとき日本経済は加速度的に転落し、私たちの生活も崩壊するだろう。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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