「マルマルモリモリの福くんが、思春期の疼きを体当たりで…」 『惡の華』は鈴木福の代表作になり得る
思春期の自我は厄介。欲望と妄想はたけだけしく、自己顕示欲と自意識過剰、自己否定と自己嫌悪を繰り返す。どうにも苦しくてどうしようもなく恥ずかしい。本当は悶々として発狂しそうなのに、虚勢を張ったり、無関心を装ったり、で忙しい。何者でもない自分の無知と無力さを思い知るのは大人になってからも、いや、死ぬまで続くというのに、10代で答えを出そうなんて。そんな思春期の悶々を生々しく瑞々しく描いた「惡の華」、主人公を演じているのは鈴木福。名子役からの脱皮、たぶんこれが代表作になるなと思わせる名演だ。マルマルモリモリで愛らしく踊っていた福くんは、もういない。思春期の疼きと羞恥心を体当たりで熱演。
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福が演じるのは中学生の春日高男。ボードレールを愛読する文学少年。同級生を幼稚に感じて心の中で見下しつつも、成績優秀で清楚な佐伯奈々子(井頭愛海)にはひそかに恋心を抱いている。あるとき、落ちていた体操着を拾ったら佐伯のものと分かり、衝動的に匂いを嗅ぎ、家に持ち帰ってしまう。罪悪感を抱き、返そうとするもタイミングを逸しているうちに、体操着窃盗事件として大事になっていく。しかも最悪なことに、犯行現場を見られていた。春日の後ろの席に座る、不穏な雰囲気の女子・仲村佐和(あの)に。その日から仲村は春日を脅迫してくる。「変態」「クソムシ」と面罵され、「バラされたくなかったら、すべてをさらけ出せ」と強要。仲村の執拗(しつよう)な脅迫のおかげもあってか、春日は佐伯との距離を縮めることに。そして付き合い始めるのだが、仲村がつきまとう。仲村の罵声は春日の自我に響き、共振し始める……。
いろいろと話題のあのも、不協和音が鳴り響くような強烈なキャラとしては適役だったかな、と。すごかったのは井頭だ。美人優等生の佐伯がどんどん狂っていく姿を体現。自我の芽生えから嫉妬による暴挙、そして精神崩壊まで、切なさと破壊力をもって熱演。優等生女子の精神的・肉体的岐路を鮮やかに表現していた。
春日と仲村は精神的な結び付きを強めていき、祭りの日に焼身自殺未遂を起こす。そのせいで田舎町にはいられなくなり、春日一家は埼玉県へ。高校生になった春日は死んだように生きていた。クラスで人気の女子・常磐文(ときわあや/中西アルノ)が書店でボードレールの『惡の華』を手にしているのを見て、思わず声をかける。本を通じて、常磐と距離が縮まっていく春日(春日のお薦めの本が沼正三や夢野久作、澁澤龍彦ってあたりがいかにも厄介な自我!)。
明るくて気さくな常磐は友達も多く、モテる。他校に年上の彼氏(水石亜飛夢)がいるとうわさだが、実は無類の読書家で作家志望。属するコミュニティーを間違えているせいか、自分をさらけ出せずにいたのだった。
人気者女子のひそかな欲望や自我を意図せず刺激してしまう春日だが、心の奥にはいまだに混沌(こんとん)と破壊衝動と破滅願望を共有した仲村がいる。ホント厄介だが、現実の青春は爽やかでも清らかでもないんだよなと思い出させてくれた問題作だ。









