「タイの粉ミルクなんて大丈夫なの?」産後サポートで駐在先に来た実母に募るイラ立ち “タクシーにも乗れない、何しに来たの…”
ただでさえ不安な「はじめての出産」を異国で――。海外駐在中の妻たちのお産では、日本にいるとき以上に実母を頼りたくなるもの。遠い国で暮らす娘のためとなれば、はりきって飛んでやってくる母も多いだろう。ただしそんな母が、逆にお荷物になってしまったら……。自身もタイで出産をした経験を持つ、駐在妻専門カウンセラーで臨床心理士・公認心理師の前川由未子さんに、実際に起きたトラブルと対処法を教えてもらった。
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海外での出産に救いの手のはずが……
夫の仕事の関係で、タイのバンコクで暮らすリサさん(32歳、仮名)は、第一子の妊娠が発覚した際、喜びよりも先に強い不安に襲われたという。
「ただでさえ言葉も文化も違う海外での出産と育児。そのうえ、駐在員である夫は日々の業務に追われて多忙を極めており、日中は完全にワンオペ育児になることが目に見えていたからです」
そんな限界寸前のリサさんに手を差し伸べたのが、日本に住む実母だった。「産後の手伝いに行く」という母親からの申し出は、海外生活で孤立しがちだったリサさんにとって、まさに地獄に仏。ありがたくその厚意を受け入れ、現地での出産を迎えた。
しかし、リサさんの退院に合わせて母親が現地に到着した瞬間から、事態は予想もしない方向へと転がり始める。
異国に不慣れな親のケアという想定外の負担
「私の代わりに買い物に行ってくれたり、家事や育児をサポートしようしてくれたりと、母親なりに必死に頑張ってくれたのは分かっているんです」
そう当時を振り返るリサさんだが、現実は「イラ立ちの連続」だったという。良かれと思って現地入りした母親だが、タイに来るのは初。当然ながら言葉は話せない。アプリでタクシーを呼ぶこともできなければ、近所のスーパーへ買い物に行くことすらおぼつかない。結果としてリサさんは、産後間もない満身創痍の状態でありながら、異国の暮らしに慣れない親の生活のサポートまで、二重に背負い込むことになってしまったのだ。
さらにリサさんを追い詰めたのは、母親からの悪気のない口出しだった。
「タイの粉ミルクなんか与えて本当に大丈夫なの?」
異国の慣れない育児環境を心配するあまりとはいえ、母親はリサさんのやる事なす事にいちいち口を挟んできた。
特に衝突したのが、離乳食だ。日本では月齢ごとに味付けや調理法、固さが細かく分けられた市販のベビーフードが手軽に手に入る。しかし、リサさんの駐在先では月齢の区別などなく、一律にドロドロで味のないものが主流だった。母は「そんなものを食べさせないで、手作りすればいい」というものの、手作りしようにも日本食材の選択肢は限られ、価格も驚くほど高い。
限られた環境のなかで、なんとかやりくりして我が子を育てているリサさんに対し、母親は容赦なく日本の理想の育児スタイルを押しつけてくる。途中、一度の帰国を挟みつつ、トータルで4か月近くに及んだ同居生活の中、「手抜きをしている」「可哀想だ」と言わんばかりの視線や小言に、リサさんの精神は削られていった。
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