「タイの粉ミルクなんて大丈夫なの?」産後サポートで駐在先に来た実母に募るイラ立ち “タクシーにも乗れない、何しに来たの…”

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産後の「戦闘モード」と「反抗期の再燃」

 実の母娘だからとはいえ、なぜここまで激しくぶつかってしまうのか。駐在妻のメンタルケアに詳しい心理カウンセラーの前川さんによると、そこには産後特有の女性の心身の変化と、母娘関係の心理構造が深く関係しているという。

「産後の女性は、急激なホルモンバランスの乱れによって精神的に非常にセンシティブなメンタルになっています。身体は出産でズタボロのまま回復しておらず、睡眠不足も重なるなかで、本能的に我が子を何としても守らなければならない、とピリピリとした戦闘モード、いわゆる“ガルガル期”に入っています」(前川さん、以下同)

 一方で、子どもが成人して結婚・独立することで、一度は適切な距離感を保てていたはずの母娘関係も、出産を機にバランスを崩しやすくなる。目の前の娘が母親になった姿を見ると、かつて、世話を焼いていた昔の母子関係モードへと引き戻されてしまう。そのため、良かれと思って娘の育児に過剰に踏み込み、口出ししてしまうのだ。

「しかし、娘側はすでに十分に自立した大人であり、家庭の主導権を持っています。自分のやり方や現地のルールがあるため、母親の干渉に対して激しく反発し、まるで反抗期の再燃のように、感情的にぶつかり合う事態になってしまうのです」

親世代に必要な子育てのアップデート

 この不毛な衝突を避けるためには、まず親世代は「時代も国も違う」という事実を自覚すること。

「時代が変われば、子育ての常識も変わります。自分の時代のスタイルが現代には当てはまらないことを知り、育児知識をアップデートする必要があります。ましてや、今回は国さえも違うのです。その国のカルチャーがあり、娘の家庭が築いてきた現地のカルチャーがあることを自覚すべきです」

 実母側は、娘の家庭のカルチャーを、間違いとして正そうとするのではなく、違いとして尊重し、受け入れて楽しむ姿勢を持つことが大切だ。娘も、決して家政婦や乳母として親を呼びつけたわけではなく、海外での子育てという人生の一大イベントを「一緒に楽しみたい」という気持ちが少なからずあったはず。

 こうした産後の親子間の軋轢は、日本国内でも珍しいことではない。どこに住んでいようとも、親子である前に「一人の大人同士」として、お互いのプライベートに踏み込みすぎないという最低限のマナーが不可欠である。

海外へ親を呼ぶときの事前の防衛策

 これから海外出産を控え、日本から親を呼び寄せようと考えている駐在妻側にも、できる防衛策はある。

 同居生活が始まってからパニックにならないよう、必要な食材はどこでどう買えるのか、アプリを使ったタクシーの配車方法、公共交通機関の乗り方など、生活に必要な基本情報を事前に下準備して親に共有しておくことだ。

 また、初めて海外に来て、いきなり過酷な産後のお手伝いをする、というミッションは、年老いてきた親や海外経験の少ない親にとってハードルが高い。理想を言えば、出産前の比較的動ける時期に事前に現地に来てもらい、異国での生活を予習してもらう期間を設けるのがベストだ。

「過去には、義理の母親に出産の手伝いを頼もうとして呼び寄せたところ、当の本人は“観光気分”で毎日遊びに出かけてしまい、産後間もない身で義母のご飯作りまで負担させられたという本末転倒なケースもありました」

 親子ゆえの甘えと異国ゆえの過酷さが絡み合う、駐在先での産後ヘルプ。お互いが一歩下がり、大人の家族として適切な距離感を保つことこそが、異国での生活を乗り切るカギだといえる。

前川由未子さん
金城学院大学経営学部 准教授。臨床心理士、公認心理師。産業組織領域を専門に、これまで5000人以上の支援に携わる。2025年、海外居住者のメンタルヘルスケアを提供する(株)Taznaを設立。

デイリー新潮編集部

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