大詰めを迎えた「再審制度」改正法案…冤罪被害者の救済と共に問われる“確定から平均16年間執行されない”死刑のあるべき姿

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2年11カ月、執行がとまる

「おい、見てみろよ! パトカーや救急車が、一斉に後ろの方に向かってるぞ」

 2008年6月8日、水道橋駅にさしかかったJR総武線内で会社の同僚が筆者に声をかけた。「アキバで何かあったな」。そう直感すると、当時、社会部記者だった筆者は同僚と共に同駅で急ぎ降車。秋葉原駅方面に引き返した。

 東京・秋葉原、通称「アキバ」の繁華街で7人が死亡、10人が重軽傷を負った無差別殺傷事件の発生直後のことだ。筆者たちは直前まで、秋葉原の家電量販店におり、新宿方面に向かったばかりのところだった。

 事件は今月8日、発生から18年を迎えた。小雨模様の中、現場の交差点では花やペットボトルが供えられ、犠牲になった人たちを多くの人たちが悼んでいた。犯行形態は加藤智大元死刑囚(当時25)がトラックで歩行者天国に突っ込み、通行人をはねた後、買い物客らをナイフで襲撃したというもの。元死刑囚は殺人罪などで起訴され、15年に最高裁で刑が確定。判決では「没頭していたインターネット掲示板で受けた嫌がらせに怒って犯行に及んだ」と動機を認定した。刑は22年7月に執行された。

 元死刑囚は死刑確定翌年の16年5月に再審請求。20年8月には第2次請求を行っており、犯行時の責任能力を争っている途中の22年に死刑が執行された。ただ、この執行以来、昨年6月27日に神奈川県座間市の9人殺害事件(2017年)で、元死刑囚に死刑が執行されるまでの2年11か月間、死刑執行はなく、法務省が執行を公表するようになった1998年11月以降では、最長の期間となっている。法曹界では「袴田事件の再審請求の動向が、かなり影響したのでは」と噂されていた。

犯罪被害者の視点は

「(法の規定ではなく)運用でなんとかしましょうとの結論には納得できない」

 今年2月、法務省の法制審議会の部会が再審法見直しの答申案を取りまとめた直後の記者会見で、委員の鴨志田祐美弁護士はこう述べた。刑事訴訟法は再審規定が十分とはいえないため、袴田さんは再審請求から無罪確定まで43年もの長期審理を強いられた。今回の再審制度見直しはその反省に立ったもので、1948(昭和23)年の同法制定以来、初めてのこと。

「審理長期化の元凶」(法曹関係者)と指摘される「請求審段階での検察官の不服申し立て(抗告)」の禁止が議論の主要論点となったが、批判の強い検察官抗告が答申案の段階から禁止されないことになったことが、国会審議紛糾の起点となったわけだ。

 弁護士会館2階で2月2日に開かれた記者会見には筆者も取材に向かったが、会見場は不満をブチまけた鴨志田弁護士らの怒りにつつまれていた。鴨志田弁護士は第4次再審請求中の「大崎事件」で長年、弁護団事務局長を務めているほか、現在は日弁連(日本弁護士連合会)の再審法改正推進室長として活動。冤罪防止運動の「旗振り役」として知られる。

 ある日弁連元副会長は「無罪の人が死刑にされることがあってはならないのは当然として、犯罪者ではないのに延々と身柄を拘束されることも、決して許されないということ」と指摘。一方、検察関係者は「岡本啓三元死刑囚の件では共犯者も裁かれており、秋葉原は現行犯。冤罪のはずはなく、再審請求が時間稼ぎの道具にされている。再審のハードルが下がった印象を与える制度の改変は、絶対にあってはならない」と語る。

 検察官抗告は禁止に向けて、審議の中で大きなうねりをみせている印象だが、衆院法務委員会で先月29日に行われた参考人質疑では、上谷さくら弁護士が「安易な再審開始決定」は犯罪被害者の負担になるとして「抗告禁止には反対だ」と被害者側の立場からも意見を述べている。参政党が急転直下、法案の賛成に回り“例外の抗告”は残される公算が高まったが、再審法改正案の修正を巡る攻防はまさに最終盤に入っている。

岡本純一(おかもと・じゅんいち)
ジャーナリスト。特捜検察の捜査解説や検察内部の暗闘劇など司法分野を中心に執筆。月刊誌「新潮45」(休刊中)では過去に「裏金太り『小沢一郎』が逮捕される日」や「なぜ『東京高検検事長』は小沢一郎を守ったか」などの特集記事を手掛けた。

デイリー新潮編集部

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