調理器具は完備で、テナント料も破格…それでも飲食店をオープンできない“とにかくスタッフが集まらない問題” 「人さえいれば…」が合言葉に
先日、廃業した焼肉屋の空き物件を内見してきた。筆者が暮らす佐賀県の地方都市で、街の事業家的ポジションの40代男性・A氏が「いい物件だと思うので、一緒に何かできればいいですね」と私に声をかけてくださり、内見に同行したのである。同店が営業していた時は大変繁盛していたため、なぜこの店を手放したのかいつも不思議だった。不動産会社の方曰く、同店の運営会社が他の事業で儲けたためそちらに集中したいからなのだという。【中川淳一郎・ネットニュース編集者】
いい物件だが…
店に入って我々は興奮した。席数はテーブル約34席と座敷約16席というところか。椅子や座布団を足せばさらに収容できる。毎月1ケタ万円後半の家賃を払えばいい、という破格の条件に加え、このインフラはそのまま使えるという。全席にガスで炎をつける鉄板はついており、排煙ダクトも完備。調理器具・食器も別の場所に保管している。冷蔵庫・冷凍庫に食洗器までついている。
これらを撤去する場合は自費になるため、カネは数百万円単位でかかる。だったらこのままの設備を使い、焼肉屋か鉄板焼き屋かお好み焼き屋をやるというのが現実的であろう。我々は目を合わせ「こりゃいい物件だ」とほくそ笑んだ。しかし、A氏は経営のプロのため、「ちょっと50席というのは多いかな……。人(スタッフ)が集まらないかもしれませんね……」と言った。
さらに、「こちらのテーブル席だけであれば、従業員2人で対処できますが、座敷は大変ですね」と言った。すると大家はふすまで囲まれた座敷部分のテーブルを撤去ないしは一箇所に集め、宿泊施設にしても構わないと言う。煙クサい中寝るのもどうかと思うが、たとえば定休日のみの民泊でもいいし、何らかの研修の打ち上げで貸し切りにされた場合の宿泊施設にしてもいいと言う。
恐らくこの設備すべてを新規で購入すると2000万円ですぜ、ダンナ、いかがっすか? と不動産会社の担当者はA氏の心を動かそうとする。
腕のいい料理長を探すのが至難の業
無論、彼も乗り気だ。なかなかの掘り出し物だと私も思った。「あとで返事します」と伝えて外に出た。魅力的に思える物件を前に、A氏が即決を避けた最大の懸念材料、それは「労働力の問題」なのである。
少子高齢化・人口減少時代において、特に、地方の飲食店で発生しがちなのが、以下のようなサイクルなのだ。
(1)店主の高齢化や人手不足などで廃業
(2)次の借り手が見つからない
(3)家賃を激安にすると、借り手候補が出る
(4)居抜き物件に魅力を感じ、内覧時に興奮する
(5)家に戻り冷静になると「料理長とホールスタッフはどうやって見つけるんだ……」という難題にぶち当たる
(6)不動産屋・大家に断りの連絡を入れる
(7)「人さえいれば……」と皆が嘆く
とにかく今の時代、地方都市で腕の良い料理長を探すのは至難の業だ。一度引退した職人を引っ張り出せたのであればまだ御の字で、誰かのツテのツテで雇った若い料理人がとんでもない大外れということもある。
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