2つの巨大な再開発で「京都」は終わる… 景観破壊で国際観光都市が失う“らしさ”
京都市内各所からタワマンが見えるように
向日町駅は京都市ではなく、京都市の南西の向日市にあるが、京都駅からはわずか3駅で10分もかからない。桂離宮から3キロほど南に位置する。この駅前に、JR西日本不動産開発と三井不動産レジデンシャルが建てようとしている「ジェイグランタワー京都向日町」は、すでに2025年に着工され、2028年7月に完成する予定だという。
問題は京都市と境を接していながら、京都市の「新景観政策」の対象外で、事実上、高さ規制が存在しないことだ。その結果、東寺五重塔の54.8メートルより73メートル高く、京都駅ビルの2倍以上の高さで、ロウソクのようなニデック京都タワーとほぼ同じ高さのタワーマンションが建てられ、京都市内の各所からの視界に入るようになってしまう。盆地としての京都を囲む山の稜線を遮る可能性も高い。
しかし、向日市は京都市に隣接し、京都という国際観光都市の果実を受けとる位置にある。それに、地方自治体としての境界線はあっても、京都市とは歴史と風土を共有している。なぜそれを守り、活かすのではなく、壊そうとするのか。タワマンが建つことで、これから何千万人、何億人という人が目にする故郷の景観が壊されるのに、それにまったく無頓着なのはなぜなのか。
2025年10月、「住みよい向日市のまちづくりを考える会」が、このタワマンの建築確認の取り消しを求め、京都府建築審査会に審査請求を申し立てた。しかし、建築工事は日々進行している。
向日町駅前の再開発計画は、当初はずっとシンプルなものだったという。駅の改札が西側の1カ所しかなかったため、駅舎を橋上化し、東西の行き来をスムーズにすることが検討されたのが最初だった。それが駅ビルの整備計画に発展した挙げ句、2020年にタワマン建設が持ち上がったという。
現在、全国の再開発計画はほとんどがタワマンとセットだが、これには理由がある。都市再開発を進めるには、都市再開発法の規定で地権者の3分の2以上の同意が要る。再開発が進むと「損だ」と地権者が感じるようでは、同意は得られないので、事業者は「得だ」と思わせるように努める。そこでタワマンなのである。
つまり、建物を高層化して「保留床」と呼ばれる床を生み出し、その売却益を建設費に当てれば、地権者はあらたな費用をほとんど負担せずに、新築ビル内の「権利床」に入居できる。だから、多くの地権者が再開発に賛成してしまうのだが、するとディベロッパーもゼネコンも、そして地方自治体も利益が得られる。建設業者は大きな建物を建てるほど利益が上がるし、自治体もマンションからの固定資産税や、入居者からの住民税などが得られる。こうして、それぞれがウィンウィンであるかのように錯覚して事業が進んでいく。
持続可能性がまったくない愚かな開発
だが、建てたビルを売ってしまえば、あとは一切の責任を負わなくてもいい建設業者を除けば、「得だ」というのは錯覚にすぎない。
日本の出生数は2016年にはじめて100万人を割って以後も急激に減り続け、2024年には確定数で68万6173人となった。わずか8年で3割も減ったのである。2025年も速報値で70万5809人と、前年速報値を下回っている。国土交通省は日本の総人口が2050年までに1億人まで減ると見込むが、かなり前倒しするのが確実視されている。
すなわち、拡大型の再開発をすると、「人口が増えて賑わうのではないか」と期待する地域住民は多いが、これからはどの地域も人口減少を止められない。地域を活性化したければ、必要なのは空き家対策で、住宅戸数を増やせば増やしただけ、負の遺産が増えることにしかならない。仮に「ジェイグランタワー京都向日町」は賑わったとしても、その分、必ずほかの地域がいっそう深刻な人口減少に見舞われることになる。
京都駅前の再開発で増やそうとしているオフィス空間も同様だ。現在、コロナ禍で進んだリモートワークからの回復もあり、オフィス空間は不足気味のようだが、一時的な現象にすぎない。生産人口は今後、減少する一方で、そのうえフリーアドレス化が進み、AIは進化する。どう見積もっても、オフィスビル需要は近い将来、減少に転じるしかない。
100年先を見ろというのではない。20年、いや10年先を想定すれば、容易に見通せることにどうして気づかず、SDGsの時代に、持続可能性がまったくない愚かな開発を推し進めようとするのか。その結果、かけがえのない財産としての景観が損なわれ、それは将来の観光業へのダメージにも直結する。向日町駅前の場合、周囲の低層地域の住民が蒙る圧迫感も相当なものだろう。
目を覚ましてもらうのを願うほかないが、さもなければ京都は終わる。




