「自分は間違っていたのか、ずっと引っかかっていた…」 名物審判「平光清さん」が実況アナに漏らした「幻のホームラン」秘話

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審判4人制を生み出す

「俺たち審判は、お客さんからすればあくまでも裏方。目立つ必要はない。でも懸命にプレーする選手のため、例えばピッチャーが三振をとった時のポーズやコール、本塁クロスプレーを判定するときの立ち位置、ジャッジを下した際のポーズやコールなど、同じ三振や、アウト、セーフでも、よりお客さんが盛り上がるように演出はできる。それを追求してきた」

 と、おっしゃっていたのを思い出します。独特のストライクのコールで有名な白井審判や、卍ポーズでおなじみ敷田審判も、平光さんのように「魅せる」スタイルを追求した結果かもしれません。

 実際、平光さんが解説のためナゴヤ球場の放送席にいらっしゃると(ナゴヤ球場のラジオ放送席はホームベースの後ろ、グラウンドレベルにありました)姿を見つけた選手がネット越しに挨拶に来て「平光さんがいなくなって、改めてすごい審判だったとわかりました」という言葉をかけることが多くありました。

 平光さんは審判制の改革にも熱心でした。MLBのアンパイヤスクールに留学し、教官とはその後も公私にわたって交流を続けられていた平光さんだけに、MLB野球だけでなく、審判界の動向にも非常に詳しく、日本にも導入すべきと考えたものは、積極的に取り入れました。

 その代表例が1990年、セ・リーグ審判部副部長に就任されてから取り組んだ「審判4人制」です。

 それまでは各塁一人ずつとライト・レフトに一人ずつ、合わせて6人の審判で試合が行われていました。4人制はライト・レフトの線審を廃し、球審、塁審の4人で試合を行うものです。

 4人制になると各審判の負担は格段に増加します。自分が担当のベース周辺はもちろんですが、1塁塁審はライトに、2塁塁審はセンターに、3塁塁審はレフトに打球が飛ぶと、その方向へ外野までジャッジに向かいます。さらにランナーがいる場合は審判がいなくなった塁に、他の塁担当の審判がカバーに入ります。このほかにもありとあらゆる状況に応じてグラウンドを縦横無尽に走り回ることになります。

 現在、アマチュア野球では各地の連盟が「4人制」の審判の心得やマニュアルを出していますが、そのくらい審判には高い技量が要求されるわけです。

 平光さんは常々、こうおっしゃっていました。

「元同僚たちを悪く言うつもりはないが、中には日々の研鑽を怠っている者もいる。一番情けないのは、抗議を受けた後に自分の判定が正しかったのか振り返ることなく、そんな日もあるよと、検証や反省もなく、お互いに傷をなめあうような者までいる。審判自身が技量を向上させない限り、ベンチからなめられてしまう。その技量向上のためにも4人制を成功させなければならない」

 前回ふれたように、現在のNPBではABS導入も検討されていますが、平光さんは「ボール、ストライクの判定は審判によって違うのは確か。だが、それも含めて野球なのだ」との言葉を残されています。今の時代を生きる人はこの言葉をどのように受け止めるでしょうか。

幻のホームランの真相

 最後に平光さんがお亡くなりになって15年……もう時効だと思うので、二人だけの秘話をご紹介します。

 前回紹介した92年の阪神-ヤクルト戦で、八木の“幻のホームラン”で大バッシングを受けた一件のあと、平光さんがMLBアンパイヤスクールを訪ねた際、現地の審判にこう言われたそうです。

「平光、お前のジャッジは間違っていない。フェンスのラバー上部に当たってそのままスタンドインすれば、それはホームランだ」

 帰国後、平光さんは「もう終わったことだけど、本当にあの打球をホームランと判定した自分は間違っていたのか、ずっと引っかかっていた。あの時はラバーの一番上に当たってフェンスを越えればホームランだと自信をもって判定したが、抗議で審判が集まって協議になった際、他の3人がエンタイトルツーベースだろうと言うので記憶違いかと自信がなくなってエンタイトルだと認めてしまった。だがホームランで間違いないと言われて、胸のつかえが下りた」と、ぼそっとおっしゃったのです。

 こちらから聞きにくい話題でもあり、私から触れたことはなかったのですが、ご自身からの発言が今も心に残ります。

 審判の皆さん、平光さんの遺志を継ぎ、プロ野球の益々の発展のために、どうぞ宜しくお願いします。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。

デイリー新潮編集部

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