人の眼の機能を拡張する空前絶後の昆虫写真を通して世界の謎に触れる――「養老孟司と小檜山賢二の虫展」番外編

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昆虫たちは世界の謎そのもの

 では、その小檜山氏の昆虫写真を私たちはどのように見れば良いのか。

「虫展では、大きな昆虫写真の右下の端に実物大の虫を示してあります。まずはそれを見て、この虫と同じように自分自身を拡大したらどれほどの大きさになるだろうかと想像し、世界全体が謎だらけ、わからないことだらけであることをあらためて意識してみてください」

 その上で、まるで世界の謎を代表するような昆虫たちの不思議な姿形や模様をじっくりと観察する。

「人間がつくったものではない自然のもの、特に昆虫についてはわかっていないことも多く、観察のしがいがあります。例えばインカ文明の装飾品は、インカノツノコガネという南米に生息している甲虫の体のモザイク模様やV字の角などにとてもよく似ています」

 何しろ現生人類の歴史が20万年なのに対して、昆虫は3億7900万年。昆虫はまだ見つかっていないものも含めると300万~1000万種もいると言われている。特に甲虫が多く、養老氏が最も好きなゾウムシはそのなかでも多くて6万種。

「いずれも小さいですが、色も形も様々です。やたらと首が長いロクロクビオトシブミ、宝石を散りばめたような鱗片が特徴的なホウセキメカクシクチブトゾウムシ、毛むくじゃらのチャケブカゾウムシなどを見ていると、なぜこのような形になったのか、どうして自分はこの色や模様を好ましく感じるのかなど、次々と疑問が湧いてくるでしょう。今回の展示に限らず、できれば一日のうちに10分でいいから、自然のものを見てみると良い。そうすると、見ている世界は自分の中で少しずつ変わっていき、何らかの発見があります。何かを発見すると、自分も、脳ミソも変わります。発見した自分はもう、それまでの自分とは変わっているのです。自分の力の及ばない自然の偉大さを知ることができる。他人に対しての優しさや想像力にもつながるかもしれない。自然には、新しい発見が無限にある」

 実際、虫の音が小さく響く会場で小檜山氏の昆虫写真に見入り、その間に配された養老氏の言葉を読んでいると、これまでいかに自分が知らず知らずのうちに物事を雑に見て「こういうものだ」と決めつけ、「わかったつもり」になりがちだったかということに思い至る。そして会場を出る際、養老氏の次の一言が目に飛び込んでくる。

「この展示に結論やまとめはありません。なににでも答えがあると思わないほうがいい。世界は、現在進行形だから」

 私たち人間には、見ること、考えることを見つめ直す機会が必要だ。「養老孟司と小檜山賢二の虫展」は東京都写真美術館で5月24日まで開催後、夏には豊田市立博物館、秋には岡山県立美術館ほかその後も全国各地を巡回予定。

 記事の前編では、「深度合成技法」のパイオニア・小檜山賢二氏が全く新しい昆虫写真を生み出し、養老孟司氏と「虫展」を開催するまでの経緯を詳しくご紹介している。

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