未解決のバラバラ殺人「京都主婦首なし事件」 逮捕後に不起訴となった不倫相手が11年後に起こした「もう一つの謎多き殺人事件」【事件から20年】
かつて未解決事件で逮捕された経験が
事件の舞台となった新生社は不正経理を巡って紛糾していた。被害者のB社長には、会社が受取人となる、約2億5000万円もの経営者生命保険がかけられていた。事件の背景にはAを中心とする複雑な人間関係が錯綜している。
事件は本当に社長と取締役、二人のいさかいから短絡的に起こったものなのか。B社長とA以外にこの事件に関係した者はいないのか。
これら多くの謎を解く鍵が、冒頭のボイスレコーダーである。事件は警察、検察当局によって、単独犯として片付けられたが、それに根本的に疑問を投げかける超一級の証拠。そこには犯行現場に残された共犯者の足跡が刻まれていた。このボイス記録が、事件に大きな波紋を投げかけようとしている。
しかも、この事件にはもう一つ、知らざる事実が埋もれている。全く報じられていないが、実は生コン会社の社長を殺害したAは、かつて未解決事件で逮捕された経験があったのだ。 ご記憶の方がいるかもしれないが、1995年に京都府の山中で遺体が発見されたバラバラ殺人事件、「主婦首なし殺人」である。
ホテルで消息が途絶え……
「えっ、ホンマですか。あのAがまた逮捕されたいうんは。殺しですか。よりによって、また殺人の容疑とは……」
生コン会社社長殺害の一報を伝えると、元捜査幹部はそう絶句した。すでに京都府警を退官し何年もたっているが、現役時代を思い起こすように、黙り込んだ。
その事件は95年4月に起きた。 京都の鐘打山と呼ばれる山中の小川で、女性の遺体が発見される。遺体は両手首が切断されている上、首から先もない。犯人が被害者の身元を隠すため、両手や頭部を胴体から切り離したに違いない。
ほどなく遺体は、三田市内の病院に勤める看護師の田中久美子さん(当時44歳)と判明。殺人事件と断定した京都府警が捜査を開始した。猟奇的な首なし殺人事件と話題を呼んだ。
被害者の久美子さんは主婦だった。その不倫相手が生コンミキサー車の運転手のAである。捜査本部がAに疑いを抱いたのには、それなりの理由がある。
「現状証拠がそろっとったからね。そうやないと、逮捕まではしませんよ」
元捜査幹部がそう振り返る。逮捕はむしろ自然な流れだったともいえる。
司法解剖の結果、久美子さんの死亡推定時刻は95年4月26日深夜から翌27日未明とされた。その26日午前8時過ぎ、彼女は実家の法事に出かけると言い残し、自宅を後にしている。しかしそれは表向きの名目であり、実際はAとの駆け落ちだった。二人は午前9時に三田駅前のロータリーで落ち合い、そのまま車で福知山に向かった。 福知山は遺体発見現場の鐘打山にも近い。
夕方になって、二人はホテルへ向かう。チェックインは当日夕方。そこから久美子さんの消息が途絶える。彼女は翌日未明までに殺害され、頭部や両手を切り離された上、鐘打山山中に遺棄されたのである。
〈ご迷惑をかけるけど、よろしくお願いします〉
久美子さんはこの駆け落ちの最中、そう走り書きした手紙を実妹宛てに書いている。封書には、預金通帳が同封され、そこに残した子供たちへの30万円の振り込み記録が残っていた。彼女にとっては、覚悟の駆け落ちだったに違いない。
その駆け落ち相手だったAは、確認されている、彼女と会った最後の人物である。当初、Aをターゲットにした捜査は順調に進んだ。捜査本部は二人の足取りをつかみ、事件から4カ月後の9月1日、Aの逮捕に踏み切った。
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