中高生が生成AIでSNSのアイコンを作成するいま…「手描きイラスト」の価値が爆上がり「絵描きにとっては千載一遇のチャンスです」

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 生成AIを使ったイラストの投稿が原則NGというコミュニティサイト「TEGAKI」が、「EGAITE」にリニューアルされた。当初はSNSで大きな反響を持って迎えられたが、メンテナンスに時間がかかったせいか、再開は思ったほど盛り上がらなかったようだ。これからどこまで利用者数を伸ばせるか、運営側の手腕が試されるといえよう。

 生成AIを巡っては、投稿したイラストをAIに学習されないBlueskyなどのサイトにアカウント開設する人もいた。ところが、実際はどうだろうか。多くの人はそういったサイトに移動せず、“無断学習される”として悪名高いXを利用している人が多いのだ。いったいなぜだろうか。【取材・文=山内貴範】

なぜ、Blueskyへの移転は進まなかったのか

 イラスト投稿サイト「Pixiv」は、雑誌やゲームなどで活躍する著名なプロが多数参加していた。ところが、「EGAITE」をみると、現状ではプロがほとんど参加していない。基本はアマチュアの利用者が中心という印象を受ける。プロが生成AIに本気で危機感を持っているのであれば一斉に「EGAITE」に大移動してもいいものだが、そうした事態は起こっていない。

 2024年に、Blueskyは投稿されたコンテンツを生成AIに学習させないと表明し、歓迎された。が、蓋を開けてみたら依然としてXを利用するクリエイターはプロアマ問わず多くいる。結局のところ、「人は反響が大きいかどうかを重視する」「一部に危機感を持っているプロはいるものの、大多数は生成AIに関してそれほど危機感を抱いていない、もしくは興味がない」という実態が見えてくる。

 生成AIに対して、批判的だった人の反応も変化している。筆者の友人のイラストレーターT氏は、昨年までは生成AIに対して批判的だった。その一方で、「技術が進化している以上、諦めの境地に達している」と話し、「反対したところで覆せないのはわかっているし、目の前の仕事を丁寧にやって、生成AIに抜かれないように努力するしかない」と、苦しい心境を口にしていた。

 ゲーム会社で仕事をする社員N氏も、やはり生成AIに対して批判的だった。しかし、国内の人手不足や、生成AIに膨大な資金を投じて開発を進める中国企業との競争もあり、「活用しないと仕事が回らないし、取り入れないと乗り遅れる。アマチュアはずっと反対で構わないだろうが、我々は仕事で絵を描いているので、悠長なことは言っていられない」と、口にする。実際、SNSには、かつて生成AIに批判的だったのに、こっそりと使い出している人もいるのだ。

中学生や高校生が生成AIのヘビーユーザーに

 生成AIは著しく進化を遂げているが、取り巻く状況もまた、日々変化している。SNSで盛り上がっていた批判の声は、昨年と比べるとかなり沈静化した印象を受ける。例えば、昨年は「絵柄を無断盗用するな」という声が強かったが、そうした声も今では聞かれなくなった。日本経済新聞では連日のようにAI関連の企業の動向が報じられているものの、生成AIとイラストに関する問題について、マスコミが取り上げる機会は減っている。

 その原因は、生成AIが普及しすぎたことが挙げられる。地方の公共団体や企業、飲食店などのチラシを見るとわかる。気づいている人も多いと思うが、生成AIを使って作られたものが増えているのだ。「生成AIによって仕事を奪われているのは、イラストや写真の“素材屋”ではないか」という意見があったが、その通りであろう。

 また、10代の子供は生成AIを当たり前のように使用している。筆者がある高校を取材した際には、普通に女子高生が写真を生成AIでジブリ風に加工して楽しんでいたし、LINEのアイコンを生成AIで作成している人が何人もいた。TikTokを見ると、発表会のチラシの絵を生成AIで作成している吹奏楽部を数例見かける。

 ネットにいる一部の“絵師”や“クリエイター”には、生成AIを極端に嫌う人も多く、著作権などの問題から批判している。ところが、世の中の大半の人は、「絵が勝手に出てくる面白いツール」「チラシを楽に作れる便利な道具」程度にしか思っていないのだ。一部のネット民と、認識の乖離が著しいといえる。

アナログイラストには千載一遇のチャンス

 さて、筆者はこれまで「生成AIはむしろ、絵描きにとっては千載一遇のチャンスである」と主張してきた。2022年の頃から、筆者の周りの投資家は「生成AIの普及によって、アナログイラストの価値は急激に上がるだろう」と予想していたが、実際にその通りになってきているし、現在ほどアナログの技術に注目が集まっている時代はないと思われる。

 アナログイラストは「まんだらけオークション」で10年前は考えられなかったほど高額で落札されているし、ネットオークションで販売して生計を立てる人や、同人誌即売会でも色紙を売る人が増え、1回で10万~20万円を稼ぐイラストレーターは珍しくなくなった。生成AIの普及はイラストレーターを窮地に追いやるどころか、追い風になっているというのが正しい理解であろう。

 そもそも、ロレックスやエルメスが世界ブランドになったのは、商品を工場で大量生産できる時代に、頑なに職人技を守ったことが注目されたためである。技術のコモディティ化が進めば進むほど、昔ながらの人の手仕事が特別なものとして注目される。これは歴史上何度も繰り返されてきたことであり、美術史、技術史の教養があれば予想できることだ。

 つまり、現在はレベルの高いアナログイラストを描けば、いくらでも生成AIに対抗できる環境にある。ところが、一部の生成AIに過剰に批判的な人たちは、残念ながら聞く耳を持たない。画面上で線の歪みなどが補正されるデジタルイラストとは異なり、アナログイラストこそが、機械を一切使わずに“本物の技術”で勝負できるはずなのだが、なぜ取り組もうとしないのだろう。筆者にはわからない。

「TEGAKI」の未来はユーザー増にかかっている

 さて、「EGAITE」の最大の弱点は、ユーザー数がまだ少ないことや、得られる反響がXほど大きくない点である。インフルエンサー的なイラストレーターが使い始めなければ、ユーザー数増加への道は険しいかもしれない。しかし、ユニークなサービスであるし、今後、生成AIを好まない人たちの受け皿になれるかどうか、注目に値するだろう。

 一方で、筆者は、生成AIのクリエイティブな世界への浸食は加速するとみている。おそらく出版社も生成AIを無視できないようになるだろう。現在は批判に晒されやすい、生成AIを使った漫画賞や、小説賞が普通に開催される日は近いのではないだろうか。結局のところ、エンタメの世界では、残酷な話ではあるが、クリエイターの都合よりも消費者が面白がるかどうかが優先される。生成AIであろうと、人が書こうと、結局は面白いものが選ばれるのだ。

 現状、消費者や世間の人々は生成AIを使い始めているし、楽しんでいる。生成AIネイティブのような層が増えてくると、創造的な作品が生まれてくる可能性はあるし、生成AIで絵を出力することがいつの間にか“創造”と評されることになるだろう。その一方で、頑なに職人技、手描きにこだわる人も需要を得ていくはずで、アナログの仕事ができる人にもチャンスが到来している。この5年、10年で、両者の棲み分けが一層進むことになりそうである。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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