「誰だか分からない」ヒロイン2人の限界か 朝ドラ「風、薫る」が陥った“必然の不振”

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著名人をどう使うか

 今後の展開で気になるのは著名人とりん、直美の関わり方。多部未華子(37)が演じている大山捨松と大関、鈴木は史実上は接点が見当たらない。実在した人物と想像上のキャラクターを関わらせるのは難しい。自由に書けない部分が出て来るからだ。一方、史実があるなら、ある程度はそれをトレースできる。

 捨松はノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)を体現した人。賊軍となってしまった会津藩の家老・山川家の末娘として生まれ、1871(明治4)年から10年間にわたって米国へ官費留学。名門・ヴァッサー大学を学年3番で卒業する。一方で「人道・公平・中立」をモットーとする赤十字活動に共鳴し、自ら希望して米国の看護婦資格を取った。

「風、薫る」の中での捨松が苛立っているのは、留学で学んだことを社会に還元したいのに、それが出来ていないから。子供たちに公共心を徹底的に説く会津藩の「什の掟」が背景にはあっただろう。

 捨松はバザーを行って資金を集め、1885(明治18)年に日本初の看護学校「有志共立東京病院看護婦教育所」(現・慈恵看護専門学校)を設立した。しかし、大関と鈴木が入学したのは翌86(明19)年に設立された桜井女学校付属看護婦養成所。都内女子中高御3家の1つとして知られる女子学院の系統である。

 一方で物語のりんと直美が入学するのは、捨松が設立する架空の看護学校になる。微妙に史実と違うというのも描くのが難しい。全く違うほうが楽である。制約なく自由に創作できるからだ。

 物語が捨松とりん、直美を結び付けた理由は、同じ時代に看護に関わっていたということだけではない。捨松の夫で元勲・大山巌の別邸と農場はりんの故郷である那須にあった。第5回(4月3日)でりんが大山夫妻の乗る馬車に出くわしたのもそのためだ。ただ、これも大山別邸などの説明がなく、勿体ない気がした。大山夫妻は墓所も那須を選んだ。

 やはり大関、鈴木との関わりを示す史料がない実業家の清水卯三郎(坂東彌十郎)も出ている。第10回(10日)からだ。りんの勤め先となった舶来品店の主人である。その顧客として勝海舟(片岡鶴太郎)も出てきた。

 気になったのは卯三郎とりんの出会いと関わり方である。仕事が見つからないりんが途方に暮れてベンチに腰を下ろしていたとき、卯三郎がチョコレートを分け与えてくれた。偶然の出会いである。やがて仕事も住まいも紹介してくれる。

 捨松とりん、捨松と直美の出会いも偶然。りんと直美の出会いも偶然。それが第1週、第2週の間に起きた。そもそもドラマとは偶然の連続なのだが、短期間に続き過ぎたのではないか。それも視聴率浮上を妨げたように思う。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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