「交際した期間と同じ時間をかけて別れる覚悟を」 警察はなすすべなし… ストーカー撲滅方法を危機管理のプロが解説

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交際した時間と同じ時間をかけて別れる覚悟を

 第一に、「人間関係をデザインする」という手法だ。人間関係を成り行きに任せてしまう人が多いが、とても危険な行為である。相手の性格や価値観に合わせて、その距離感や貸し借りの程度を決めておく必要があるのだ。権利意識が高くて独占欲の強い相手とは、一定の距離を置いた関係を築くべきであり、借りを必ず返していくことも心がけなければならない。

 第二は、「四つの人間関係能力」である。人間関係能力は「開始能力・維持能力・修復能力・収束能力」の四つで構成されている。ここでは開始能力と維持能力は割愛し、ストーカー対策に欠かせない修復能力と収束能力について解説してみよう。

 まず、修復能力。この中心にあるのは、謝罪する能力だ。言い訳や反論をしたい気持ちを抑えて、こちらから相手の言いたい言葉を先に言う。「こんなことをしてしまって申し訳ありません。私は自分に対してバカヤローと言いたいです」。あるいは相手の痛みを推測して、「こんなことをされたら、絶望感や心に傷を抱えることになってしまうでしょう。本当に申し訳ありません」というような言葉を用いるといい。そして相手の痛みとのバランスを考えて、自分自身へ科す罰を伝えることが望ましい。

 次に、収束能力。ここで大切なのは、収束を急がないことだ。男女の交際であれば、交際した期間と同じ時間をかけて別れる覚悟をしなければならないのだ。

 登山に例えると分かりやすい。丸一日かけて登った山を、2~3時間で下ろうとすると滑落や遭難のリスクが高まるのと同じだ。相手に諦めや離別への心の準備が整うまで待つ必要がある。そして、相手のプライドを傷つけることなく、交際を続ける場合に生じるデメリットを理解させなければならないのである。

少なくない“予備軍”

 ここまでは、ストーカー悲劇の予防策について述べてきたが、肝心な事後の防御について三つの提案をしておきたい。

 第一は、地道ではあるが、国による法改正について声を上げることだ。警察はよりどころとなる法律がなければ、今の対応しかできないからだ。求めたいのは、接近禁止命令が出されたストーカーの位置情報を取得する仕組みである。ストーカーに四六時中発信機を装着することを義務付けて、被害者に近付いたら警察と本人に通報されるようにするのだ。

 第二は、勤務先や家庭にストーカーを撃退する道具を準備しておくことだ。熊除けの催涙スプレーや防犯用のこん棒、あるいは50センチほどある大きなスタンガンなども考えられる。職場や家族が手助けしてあげなければ、被害者、特に力で対抗できない女性を守ることは不可能である。

 第三は、被害者本人が警備会社や弁護士に守ってもらえるよう契約を結ぶこと。警備会社は、警察との連携が取りやすい警察OBが経営するところが最適だ。弁護士も警察との関係が良好な民暴弁護士(民事介入暴力対策弁護士)が望ましい。費用はかかるが、命の大切さや後の苦痛と比べたら、決して高くはないだろう。もちろん、本人が携帯用の催涙スプレーやスタンガンを用意する必要もある。警察に相談をした上で、取り扱い方も学んでおくといい。

 最後に、警察のあっせんや関係者による手配などで、加害者となりうる人にカウンセラーやコンサルタントをつける必要性も付記しておきたい。怒りの感情をコントロールできないストーカー予備軍は決して少なくない。彼らが視野狭窄に陥って、前後の見境もない行動に出るのを抑えるためには、第三者のアドバイスが必要だからだ。

 そして、弁護士会や各種支援センターがネット上に「ストーカーの被害者にも加害者にもならない秘訣」というサイトを立ち上げ、いろいろな専門家の意見や体験談を掲載するのも一手であろう。社会が皆で力を合わせて、ストーカーによる痛ましい悲劇を撲滅したいものである。

田中優介(たなかゆうすけ)
1987(昭和62)年東京都生まれ。企業の危機管理コンサルタント。明治大学法学部卒業後、セイコーウオッチ株式会社入社。お客様相談室、広報部などに勤務後、株式会社リスク・ヘッジ入社。現在、同社代表取締役社長。著書に『その対応では会社が傾く プロが教える危機管理教室』等。

週刊新潮 2026年4月16日号掲載

特別読物「池袋ポケセン殺人で警察は為す術なし 危機管理のプロが提案する『ストーカー』撲滅法」より

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