森田剛主演の舞台「砂の女」に大行列…映画版で“岸田今日子”が演じた「女」役に、いま最注目の舞踏家「藤間爽子」はどう対峙したか
森田剛と藤間爽子が演じる最新舞台
さて、今回の舞台化だが、おおむね原作に沿って展開する。
「舞台上は、砂を想定した茶系の布で覆われた砂穴の底です。その中央に、〈女〉の家の室内があります。要所で、ボロ布をまとったような〈人影たち〉が4人登場し、原作小説の地の文章を朗唱しながら、物語が展開します」
〈男〉を演じるのは森田剛。旧ジャニーズ事務所のアイドル・グループ「V6」のメンバーだったが、劇団☆新感線の舞台や、宮本亜門演出の「金閣寺」などで主役をつとめ、近年は舞台俳優としての活躍が多い。
「森田剛の〈男〉は、客席通路もつかって、縦横に動きまわります。砂穴に閉じ込められた閉塞感から必死に逃れる姿と、次第になじんで〈女〉との生活が当たり前になっていく変化を、うまく演じていました」
一方の〈女〉は、藤間爽子。近年はTVや映画、舞台など仕事の場を大きく拡げているが、日本舞踊・紫派藤間流の家元「三世藤間紫」でもある。祖父は人間国宝・六世藤間勘十郎(のちの二世藤間勘祖)、祖母は紫派藤間流の初世家元・藤間紫。父は元俳優で、三世市川猿之助のプロデューサーだった藤間文彦。少々ややこしいが、祖母・藤間紫は、後年、三世市川猿之助(のちの二世市川猿翁。二世藤間紫でもあった)と再婚したので、藤間爽子は、猿翁の義理の孫ということになる。
「演劇ファンが、今回いちばん期待していたのが、藤間爽子の〈女〉でした。なにしろ、映画版の岸田今日子のイメージがあまりに強烈だったほか、近年の舞台化でも、緒川たまき、高野志穂といった“没入型”のベテラン女優が妖艶に演じています。小柄で可愛らしいタイプの藤間爽子がどう演じるのか、注目の的でした」
藤間自身、公演プログラムのインタビューで、こう述べている。
〈殊に、岸田今日子さんが演じられた映画の女は強烈かつ魅力的で、何度も観ると影響を受けそうで恐ろしく、観るのは一度だけにしました。/童顔で精神年齢低めの自分は俳優として、岸田さんとは真逆のタイプ。〉
藤間はいま31歳。岸田今日子が『砂の女』を撮影したときは32~33歳だったので、ほぼ同年代だ。俳優にとって、それまで決定的なイメージがあった役を、あらたに演じることは、プレッシャーになるはずだ。
〈はじめは背伸び気味の女像を稽古に持って行ったのですが、それを見た山西さんは「無理につくらず、等身大のまま劇世界に存在して欲しい」と言ってくださった。以降は自然体に近く、女と私自身が一緒に無理なく場面に立てるようになった気がしています。〉
と述べている。演出・脚本の山西竜矢は、演劇ユニット「ピンク・リバティ」を主宰している。日常が次第に非日常に変貌し、ブラックユーモアのような世界に至る作風が特徴で、まさに『砂の女』に通底する作品を発表してきた演出家だ。
「藤間爽子は舞踏家だけあり、立ち居振る舞いや所作もすっきりしていて美しい。また、無理に妖艶にせず、淡々と演じた結果、不思議な透明感が浮かび上がりました」
〈女〉が、最初に奇妙な様子を見せるのが、「風呂」をめぐるセリフである。砂穴の底の家に入った〈男〉が、食事の前に風呂に入りたいと言うと、
〈「風呂……?」/「無いんですか?」/「わるいけど、明後日にして下さい。」/「明後日? 明後日になったら、ぼくはもういませんよ。」思わず大声で笑ってしまう。/「そうですか……?」/女は顔をそむけ、ひきつったような表情をうかべた。がっかりしたのだろう。〉
「この、風呂を『明後日にして下さい』という妙なセリフがポイントです。この瞬間、観客は、初めて『この〈女〉は、どこか変だ』と感じるわけです。映画の岸田今日子は、原作どおり“引きつった笑顔”で言いました。緒川たまきは表情を変えず無表情で言いました。今回の藤間はどんなふうに口にするか、オペラグラスで観ていたのですが、目もとに笑いを浮かべながらあっさりと言うので、かえって不気味な感じがよく出ていたと思いました」
すでに有名となった、原作の文章ではない結末――家庭裁判所による失踪宣告の審判書類も、映画やいままでの舞台同様、幕に写し出される。ここは、そうとわかっていても、やはり衝撃をおぼえる部分だ。
初出から60年以上たっても、『砂の女』は、まだ新しいイメージを生み出し、刺激を与えつづけているのである。
舞台「砂の女」(東京公演は終了)は仙台(4月8日)、青森(同11日)大阪(同18日~)と公演が続く。




