妻を尾行し、目撃した光景に浮気を“確信”…それでも追求しない47歳夫が始めた「ピュアすぎる恋」

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実は浮気経験ありの啓子さん

 性的な関係が不満で浮気に走ったとは限らないし、そもそも本当に浮気かどうかもわからないでしょ、ベッドにいるところを見たわけじゃないんだしと、啓子さんは次々と「ごもっとも」な言葉を繰り出してきた。それでも剛司さんは、自分を止めることができなかった。

「今思えば啓子さんも妙な人で、『じゃあ、もう人助けだと思うことにするわ。だけどいい? 1回だけ、しかも絶対に秘密よ。私だって既婚なんだからね』って。天使に見えましたね、彼女が」

 年上といっても同世代、剛司さんの必死さを見て見ぬふりはできなかったのだろう。確かにユニークな女性だが、実は啓子さん、何度か浮気したことがあったらしい。

「肉体関係なんて、たいしたことじゃないのよというのが啓子さんの考え方みたいです。恋愛なんて誤解と錯覚なんだからさ、と。でもその誤解と錯覚が素敵なのよねとも言う。妻の浮気は恋なんだろうかと言ったら、『本人が恋だと思えば恋なのよ。でもさ、大人なんだからバカなことはしないと思うわよ』って。密室でそういう話をしているだけで、実は僕は癒やされていました。本音で、しかも淡々と対峙してくれる啓子さんに、ほとんど恋をしかかっていた。そう言うとバカねと笑われました」

妻にも鷹揚でいられる

 興味深いことに、その日、ホテルという密室にいながら、結局、ふたりの間には何も起こらなかった。肉体の関係より話のほうが熱を帯び、夜中まで話し込んでしまったのだ。

「ちょっと、私、帰るわよ。愛しい人が待ってるんだからと啓子さんが言ったので、びっくりしました。4時間も話していたんですよ。僕はその間、本当に彼女の考え方がすごいなと思ったし、人間としての器の大きさを感じていました。今後はあなたに片思いしつづけるよと言ったら、『アホか。また飲もうね』と軽くあしらわれました」

 ただ、この啓子さんとのやりとりが彼に大きな影響を与えた。あれから数年たった今でも、ときおり芽依さんには怪しい言動がある。あのときの男性と今もつきあいがあるかどうかはわからない。だが、剛司さんはなぜか鷹揚でいられるのだという。

「僕のほうは相変わらず、啓子さんとときどき飲んでしゃべって楽しんでいます。本当に僕は啓子さんに恋してると思う。でもだからこそ、あえて関係はもたなくていいと思っています。関係があると浮気になるから避けているわけではなく、どっぷり精神的な恋だけを追求していくと最後はどうなるのかなというのも興味深いと思って」

 肉体関係を伴わない「恋」は、「浮気」より上だと思っているわけではないと彼は言った。ただ、この関係が続いた先に何があるのか、それを見極めたくなっているのだそうだ。啓子さんが言うように、肉体関係なんて、あってもなくてもどうってことないという考え方に感化されたのかもしれないけどと、剛司さんは少しだけ照れたように言った。彼のプラトニックラブが、今後、どういう展開を見せてどう決着するのか。妻の恋はどういう経緯をたどっているのか、相手は別の人間になっているのか、あるいはもう恋はしていないのか……。いつか夫婦の間でそんな話をする時期が来るのだろうか。

 いずれにしても人生いろいろ、である。

「自分も無理せず、人にも無理強いせず。どういう状況でも、それだけは貫いていこうと思っています」

 剛司さんはそう言うと、軽い足取りで帰っていった。

 ***

【記事前編】では、剛司さんと芽依さんが築いてきた幸せな家庭と、すべての始まりとなった「手紙」について紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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