「ドクターイエロー」に1年間密着したカメラマンが「美しい鉄道写真」だけでなく“検測員”や“鉄道ファン”の姿に焦点を合わせた理由
写真集の3つの柱
日大芸術学部の写真学科に通うと、担当教授も友人も村上氏の写真を「鉄道写真」ではなく「鉄道が映っている写真」として批評した。写真家として引き出しを増やそうと、大学時代はポートレートなど「鉄道が映っていない写真」の撮影にも力を入れた。
「JR東海さんの全面協力が得られるという、またとない機会を得たことも写真集の構想に大きな影響を与えました。具体的には『T4の中も撮影する』、『T4が引退するまでの1年をドキュメンタリーとして追う』と『T4に関わる人間の姿を可能な限り撮影する』の3つを写真集の柱にしたのです。写真集は2024年11月の検測走行、25年1月24日の体験乗車イベント、27日のラストラン前日、28日と29日の上りと下りのラストラン、2月3日から始まった廃車作業と、ドクターイエローが引退するまでの日々を丁寧に撮影した記録でもあります。さらに被写体もドクターイエローを整備する人、走る車内で検測をする人、浜松工場のイベントに集まった鉄道ファン、特に子供たち、と人間にも焦点を合わせました。ドクターイエローの美しさだけでなく、ドクターイエローが多くの人に支えられ、愛された事実を写真集で示すことができたと自負しています」(同・村上氏)
人間が中心の「ベスト10枚」
デイリー新潮は村上氏に依頼し、写真集に収められた400点の写真から「ベスト・オブ・ベスト」の10枚を選んでもらった。
そのうち、「ザ・鉄道写真」と呼べるような作品は2点しかない。しかも、うち1点は大きく拡がる愛知県内の都市空間を、小さなドクターイエローが走っているという俯瞰写真だ。あえて逆光の中を撮っており、T4を見つけるのに数秒かかるという人もいるだろう。
ほかの8点は全て人間が主役だ。廃車作業を目前にしたドクターイエローの車体を愛しそうに撫でる検測員、ラストランに乗車した検測員の様子、体験乗車イベントで子供に対応するJR東海の職員──。
ドクターイエローに完全密着した写真家は村上氏しかいない。そんな村上氏に「なぜドクターイエローはこれほど人気を集めるのでしょうか?」と質問すると、「結局、分かりませんでした」と笑った。
第1回【子どもたちから圧倒的人気「ドクターイエロー」の引退記念写真集が大ヒット! かつての乗り鉄少年が“JR東海公式”写真集を手がけるまで】では、1987年の国鉄民営化の年に生まれ、乗り鉄となった村上氏がどのような人生を歩み、鉄道写真家として活躍するようになったのか、村上氏の半生について詳細に報じている──。
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