有罪判決を逃れようと裁判所を支配下に置いた李在明 韓国の民主主義は「司法改革3法」で完全に壊れた
法施行当日に訴え
「司法改革3法」とは、李在明大統領の有罪を阻止する3段構えの防壁であることがお分かりいただけたと思います。3法ともに3月12日に施行されましたが、同日、直ちに新法を使った訴訟が起きました。
まず、左派系とされる弁護士が曺喜大氏を法歪曲罪で訴えました。李在明氏の公職選挙法違反事件は高裁で無罪判決が出ていたものの、2025年6月3日の大統領選挙直前の5月1日に大法院が高裁に差し戻しました。要は有罪判決を下せと指示したのです。
訴えた弁護士は「7万ページに及ぶ関連記録があるのに、曺喜大氏はそれを精査せず差し戻した。法の歪曲だ」と主張したのです。
――法の遡及適用ではないのですか?
鈴置:その通りです。最高裁の差し戻し判決は2025年5月1日。一方、法歪曲罪が施行されたのは今年の3月12日ですからね。ただ、この弁護士は「最高裁が関連記録をちゃんと見ていない状況は今も続いているから遡及ではない」と屁理屈をこねています。なお、韓国では遡及立法はあまり問題になりません。
3月12日には、同日施行されたばかりの憲法裁判所改正法を使った請願も出されました。経済犯罪で有罪が確定し、議員職剥奪に相当する判決を受けていた与党「共に民主党」の議員が最高裁の判決を見直してほしいと憲法裁判所に訴え出たのです。
確定判決の効力停止を求める仮処分申請を憲法裁判所が受け入れた場合、仮に有罪判決をくつがえすことができなくとも、この議員はとりあえず議席を維持できます。李在明氏にとって心強い先例ができるわけです。
憲法裁判所がこれらの訴えを受け入れるかは不明です。しかし、朝鮮日報の社説「『法歪曲罪』『四審制』を初日に利用したのは全て政権側」(3月13日、韓国語版)は「最高裁長官まで訴えられる事態を目の当たりにした裁判官や検事は委縮するだろう」と解説しています。
三権分立の崩壊
――左派による裁判所支配。国民から反発は起きないのですか?
鈴置:「李在明無罪」を阻止したい保守政党「国民の力」は全力で反対しました。司法の独立を維持したい裁判官も同様です。保守系紙の朝鮮日報は再三、社説で批判しました。しかし、国民の間から「3法絶対阻止」の声は湧きあがりませんでした。
――なぜですか?日本だったら大騒ぎになるでしょう。そもそも、三権分立を壊そうとする人は出ない。
鈴置:韓国人は法律を尊重しません。三権分立が壊れようが、気にしないのです。政争の相手を倒すためなら、自分が生き残るためなら三権分立を壊して裁判所を支配するくらい、当然のことなのです。
左派だけではありません。保守も――尹錫悦政権だって、国家の緊急事態でもないのに非常戒厳令を宣布した。立派な親衛クーデターです。
李在明氏は、このクーデターが成功すれば自分は殺されていたと主張しています。5つもの裁判で被告になっているのも、尹錫悦政権の陰謀の結果と考えている。陰謀から逃れるために3法を作ったわけで、正当防衛のつもりでしょう。
――法治を初めに壊したのは保守の側ということですか?
鈴置:それをいうなら左派にも大きな責任があります。左派の文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年、当時の法務部長官は4カ月の間に3回も指揮権を発動しました。左派の政治家への捜査を、検察の中でも左派色が濃い検事に任せるよう指示したりしたのです。
1987年の民主化以降、指揮権発動など検察への露骨な介入は慎むべきだ、との空気が生まれていました。それをいとも簡単に左派が破壊したのです。結局、韓国では日本と異なり「検察を民主的に統制するための指揮権は存在すべきだが、みだりには行使しない」という憲政の常道は根付かなかったのです。
この時の検事総長が尹錫悦氏でした。度重なる指揮権発動に対し国会で抗議しましたが、蟷螂の斧。尹錫悦氏にすれば「左派がそう出るのなら大統領に認められた戒厳令の宣布くらい、何が問題なのか」といった心境でしょう。
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