「相撲界への緊急提言」 脳震盪を起こした力士に“処置”よりも“礼儀”を求めるのか…重要性を増す土俵下の「救急救命士」の役割
3月場所初日、一山本と阿武剋の勝負は見る者の背筋に冷気を走らせた。
立ち合い、鋭く当たった一山本の頭が阿武剋のアゴに当たった。続いてもう一度、一山本の頭が阿武剋の額に当たる。直後、阿武剋は膝から崩れ、尻もちをつくように倒れた。
ビデオを見るとその詳細がすぐわかる。ところが、土俵下の勝負審判も、別室で動画を注視しているはずの親方衆もただ成り行きを見守るだけで、緊急的な対応は一切しなかった。やや間があって、阿武剋は朦朧とした様子で立ち上がり、危うい足取りで挨拶をすると、呼び出しの肩を借りて土俵を降りた。そこに車椅子が迎えに来るわけでもなく、阿武剋は自力で支度部屋に戻った。【取材・文=小林信也(作家・スポーツライター)】
【写真】阿武剋が負傷した3月場所が行われているエディオンアリーナ大阪
土俵下に救急救命士が
ABEMAの解説者・花田虎上さんは「動かない方がいい」「脳震盪を起こしているんです」とすぐ叫んでいた。それが当然の対応であり、配慮だ。しかし、日本相撲協会にはまだその程度の救急対応意識さえ共有されていなかった。
阿武剋は翌日、「左足首関節捻挫で休場」と発表された。倒れた際に痛めたものだろうか。そのケガも心配だが、それ以上に脳震盪の後の処置・静養は十分に施されたのか、それが案じられる。
相撲界では「礼儀」が重んじられている。いかなる場合でも土俵に上がる時、降りる時には「お互いに礼」をする。それはもちろん清々しい伝統であり規律だ。が、脳震盪を起こした力士にもそれを強制するのだろうか?
実は、日本相撲協会はちょうど2年前、2024年の3月場所から救急救命士を土俵下に配置している。ネット上でも、2024年7月12日に国士舘大学が発信したニュースリリースが確認できる。
『日本相撲協会と協定を締結 本場所で本学救急救命士が土俵際に待機 7月名古屋場所では平日2人休日1人体制』のタイトルで次のように記されている。
『この協定は、大相撲本場所中、その開催場所に救急救命士を常時待機させることにより救護救急体制を拡充し、力士などの安全・安心を向上させるための枠組みを定めたもので、同協会が、力士の頭頚部外傷に対する対策強化の一環として導入しました』
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