「プーチンは長期戦を考えている」 ウクライナ侵略4年で「前ロシア大使」が明かす大統領の“3つの誤算”

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 ロシアのウクライナ侵略から丸4年になるが、いまだ停戦の道筋は見えない。現在の戦況はプーチン大統領の目論見通りであったのか。侵攻を正当化する彼の歴史認識とはいかなるものか。前ロシア大使の上月(こうづき)豊久氏(69)が、独裁者の「内なる思考」を明らかにする。

※本稿は「週刊新潮」2026年3月12日号の特集【ウクライナ侵略4年 前ロシア大使が明かす「プーチン大統領の内なる思考」】の一部を再編集したものです。

 2022年2月24日、ロシアはウクライナ侵攻を開始した。この時、駐ロシア特命全権大使の上月豊久氏は、その暴挙を目の当たりにすることになる。

「当日朝6時にプーチン大統領がテレビ演説を行いました。私は、ブレジネフ書記長によるアフガニスタン侵攻がソ連崩壊につながったことを想起し、このプーチンの決定はロシアを“孤立と衰退”へと導くことになるかと思いを巡らせていました」

 それから4年が経過した。上月氏は現在の戦況をどう見ているか。

「ロシアの占領面積は、戦争開始時点はクリミア、ドンバスの一部で、ウクライナの面積の約7%でしたが、現在は約18%強までを占めています。この数字はけっこう重要で、開戦時と比較して、ロシアは領土を相当奪取しているという説明が成り立ちます」

 今後のロシアの継戦能力は、装備と兵員にかかっているとして、

「現在の戦況は、基本的には塹壕戦となっています。装備に関連する、気になる人事があります。一昨年5月、プーチンはベラウーソフ第1副首相を国防大臣に起用しました。彼は全く軍歴のないエコノミストですが、プーチンの説明によると、軍需産業をロシア産業全体に組み込むにはどうしたらよいかということを熟知しているからでした」

プーチンが考える「長期戦」

「彼の後任として、マントゥロフという副首相が第1副首相に昇格しました。マントゥロフはその前は産業商務大臣を務め、チェメゾフという軍産複合体のボスに近いとされる。チェメゾフは東独でプーチンと一緒に働き、プーチンとは非常に親しいといわれています。まさに軍産複合体に詳しい人物が、産業間の調整を職務とする第1副首相に就任した。こうした人事は、軍需産業をロシア産業全体に組み入れて増産に取り組むことを目指したものでした。私はこの人事を知って、プーチンは長期戦を考えているなと思いました。しかし、侵攻から4年になり、まだまだ装備が足りていないところがあると思います」

「兵員については、22年9月に30万人の部分動員を行いましたが、プーチンの支持率は低下しました。そこで動員を止めて、月に60万円の高額な給与で地方の青年を契約兵として雇い、また北朝鮮から1万2000人の事実上の傭兵を雇いました。しかし賃金の支払いが滞っているとの報道もあり、兵力不足は深刻になっていると思います」

 戦争は長期化したものの、ここまでロシアは有利に侵攻を進めてきたようにも見えるが、必ずしも楽観できる情勢ではないということだろうか。誤算はどこにあったのか。

「プーチンは、短期で終わるとの見通しを持っていました。彼は割とオポチュニストで機会をとらえて行動する節があり、今回の侵攻では甘い見通しに基づいて戦争を開始したために過ちを犯したと言えます。その過ちの第一は、ウクライナ政府が短期間で崩壊し、ゼレンスキー大統領は逃亡または降伏すると予測していたことです。プーチンはゼレンスキーをコメディアン上がりと軽んじていたし、ウクライナ国内の親露派勢力の影響力に過大な期待を持っていました」

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